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  <updated>2011-09-01T20:51:05+09:00</updated>
  <author><name>鼎</name></author>
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    <published>2014-06-09T13:29:52+09:00</published> 
    <updated>2014-06-09T13:29:52+09:00</updated> 
    <category term="短編" label="短編" />
    <title>スマイルください!!!</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><br />
&nbsp;</p>
<p>『まかないがポテト食べ放題って聞いたのに、売れ残りすら食べちゃダメだって&hellip;』</p>
<p><br />
気になる子がいる。<br />
本当はジャンクフードはあまり好きではないのに、その子のコトが気になって仕方なくて、ついつい足が向いてしまう。<br />
それでもやっぱり塩がききすぎたメニューは好きではないので、いつもと同じ注文をする。</p>
<p>「&hellip;コーラ、Ｌで」</p>
<p>ジャンクフードは好きではないが、炭酸は好きだ。</p>
<p>「はい、ありがとうございます!」</p>
<p>いつもの笑顔で、いつもの返し。<br />
そりゃそうだ。<br />
ただの客とハンバーガーショップのアルバイトだ。<br />
知っているのはここでバイトしていることと、彼女の名前だけ。<br />
胸のネームプレートには味気ない書体で『ファイン』と書かれている。<br />
それ以外、何も知らない。</p>
<p>「あ、すみません」<br />
「なんだ?」</p>
<p>いつもならたどたどしい仕草で紙コップをセットするのに、今日は顔を曇らせて動く様子がない。<br />
問えば、申し訳なさそうにドリンクの機械の不調を説明してきた。<br />
代わりにコーヒーなら大丈夫なんですけどというので、仕方なくアイスコーヒーをＭサイズで注文する。</p>
<p>「コーラお好きなのに、ごめんなさい」<br />
「え?」<br />
「違うんですか? いつもコーラしか頼まないからてっきり&hellip;」<br />
「いや、好きだけど」</p>
<p>本当に注文したいのはスマイルです、などと言ったらひかれるだろうか。<br />
それよりなにより、顔を覚えていてくれたことに驚いた。<br />
人影もまばらな店内でレジに並ぶものもいない今ならば、少しくらい世間話をしても迷惑じゃないだろうか。<br />
といってもこの場できる自然な話など、咄嗟に出てくるはずもない。<br />
両手で差し出されたコーヒーを受け取ると、きびすを返すしかなくなってしまった。<br />
と思ったら、カップの横でほんの少し触れ合った指先が、離れない。<br />
驚いて彼女を見ると、少しだけ近づけられた顔が内緒話をするみたいにこっそりささやいた。</p>
<p>「お詫びにポテトサービスしますから、次はイートインしていってくださいね」</p>
<p>すぐに離れた顔は真っ赤で、視線はあさってのほうを向いている。<br />
きっとこれは、自分だけのサービスのはずだ。</p>
<p>「&hellip;明日、また来る」<br />
「っ、はい! またのお越しをお待ちしてます!!」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　*　*　*</p>
<p><br />
『彼に誕生日プレゼントが買いたくて始めたけど、選んだ理由は制服のネクタイと帽子が可愛かったから』</p>
<p><br />
僕の彼女がバイトを始めた。<br />
どこにでもあるファーストフードで、バニラシェイクが好きだと言っていた。<br />
正直、彼女との時間が減ったので手放しに歓迎はできないのだが、頑張る姿は微笑ましい。<br />
その頑張りは、大抵から回ってるけれど。<br />
バイトに行った次の日は必ず、あれを失敗した、これをどこにぶちまけた、おつりを間違えた、エトセトラ。<br />
よくそんなに出てくるなというほど、失敗した話しか聞かない。<br />
それでもめげない、頑張り屋なところは彼女の美点で尊敬している。</p>
<p>「いらっしゃいませ!」</p>
<p>そんな彼女を応援しようと、今日は彼女のバイト先を訪ねた。<br />
僕を見つけると、その青い目が嬉しげに微笑む。<br />
当然のように、彼女の前のレジに並んだ。<br />
といっても店内の客足はまばらで、三台並んだレジに店員はレインしかいない。<br />
僕にとっては好都合だ。<br />
これから僕は、少しだけ恥ずかしい注文をするから。</p>
<p>「チーズバーガーのセットをお願いします」<br />
「はい、ありがとうございます! ドリンクはどうなさいますか?」<br />
「アイスティーをストレートで」<br />
「かしこまりました」</p>
<p>微笑むレインの目元がほんのりと赤いのは、きっと気のせいなんかじゃない。<br />
いつもと違う距離感にくすぐったい気持ちなのは僕だけじゃないようで、ちょっとほっとした。<br />
本番はこれからだ。</p>
<p>「それから&hellip;」<br />
「はい?」<br />
「スマイル、ください」</p>
<p>メニューにものっている0円メニューを注文した。<br />
これなら彼女は絶対に失敗しないうえに、僕も得して一石二鳥。<br />
きっと恥ずかしげにそれでも精一杯の笑顔を向けてくれると思ったのに。</p>
<p>「あの、大変申し訳ないのですが、」</p>
<p>まさかの拒否。</p>
<p>「プライベートで売約済みなので、差し上げられません」</p>
<p>顔を真っ赤にしてうつむいても、カウンターの向こうの方が高さがあるからその顔は丸見えで。<br />
恥ずかしげに伏せられた睫毛の震えもなにもかも、そのただプライベートの客は自分だと肯定している。<br />
しかもそれってバイト中じゃなく、店の外で二人っきりのときにはいくらでも見せてくれると言っているのと同義だと気づいているのかいないのか。<br />
あー、ダメだ、やられた。<br />
普段はこれでもかというほど鈍いから直球ストレートで攻めないとわかってくれないくせに、たまにこうやって彼女の方からとんでもないカーブを投げてくる。<br />
しかもど真ん中ストライクで。<br />
これはもうあれだ、バイト中の彼女の携帯にデートのお誘いメールを送るしかない。<br />
お互いわたわたしながら会計をすませてなんとか椅子に座ると、開こうと思っていた参考書の代わりにたまたま鞄に入れていたグルメ雑誌を取り出した。<br />
彼女のバイトが終わるまであと二時間半。<br />
次回のデートプランを練るには十分な時間だろう。<br />
メールの返事は直接彼女に聞くことに決めて、アイスティーにストローを差した僕は雑誌の目次をめくった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
　*　*　*</p>
<p><br />
『調理バイトのつもりが最近はカウンターにも無理やり出されるけれど、ポテトを揚げるのだけは誰に譲る気もない』</p>
<p><br />
ここの店のポテトが美味しい。<br />
聞いた話では、どこかの工場でまとめて作って冷凍して運んで、お店では揚げるだけ、らしい。<br />
たまに出かけた先で同じチェーンの店に入ることもあるけれど、どうも違う気がする。<br />
不思議に思いながらやはりこの店で食べるポテトは美味しいと思い、結構な頻度で入り浸っていた。<br />
そして気がついたのは、このお店の中でも美味しいときと、そうでもない時があるということ。<br />
美味しいときには、必ず、同じ人がフライヤーの前に立っていた。<br />
あ、今日は美味しい人だ。<br />
だから、店に入ると必ずカウンター裏にあるフライヤーをチェックして、頼むものを決める。<br />
美味しい人がいたらてりやきバーガーをポテトＬセットで。<br />
いなかったら、ダブルチーズバーガーをポテトSセット。<br />
今日はLセットだ、と思ったけれど、なんだかおかしい気がする。</p>
<p>「いらっしゃいませ」</p>
<p>あれ?<br />
レジに並んで違和感の正体に気づいた。<br />
いつもフライヤーの前に立っているその人が、レジにいた。<br />
横顔ばっかりしか見たことなかったけれど、このひとは絶対そうだ。<br />
帽子から藍色の髪がこぼれて目にかかりそうなぎりぎりのところをふわりと揺れている。<br />
正面からはあんまり見たことはないけれど、間違いない、美味しい人だ。</p>
<p>「ご注文は何になさいますか」</p>
<p>もういっそ清々しいほど愛想がない。<br />
ちょっとへこたれそうになりながらもどうしても譲れなくて、彼に質問する。</p>
<p>「あの、ポテトはあなたが揚げたやつですか?」<br />
「は?」</p>
<p>面食らったように目をぱちぱちさせている美味しい人。<br />
ネームプレートを見ると、シェイドと書かれていた。</p>
<p>「だから、ポテトはシェイドさんが、揚げたやつですか?」<br />
「え、あぁ、そうですけど&hellip;」</p>
<p>肯定の言葉に満足して、Lセットで注文した。<br />
よかった、レジにいるから違う人が揚げたのかと思った。</p>
<p>「あの、違ったら注文が変わるんですか?」</p>
<p>ドリンクを準備しながら彼が話しかけてきた。<br />
ちょっと怪訝そうな顔で、当然の事を聞いてくる。<br />
返事は是。<br />
ポテトが好きだ。<br />
細くてさくさくの、しっかり塩の効いたここのポテトが。<br />
どうせなら美味しいほうを食べたいに決まっている。</p>
<p>「だって、あなたの揚げたポテトが一番美味しいから」</p>
<p>途端になぜか赤くなった彼は、サービスだといってかなり多めに入れたポテトをトレーに乗せてくれた。<br />
椅子に座ってポテトをつまむと、やっぱり美味しい。<br />
他の人が作ったやつと全然違う。<br />
嬉しくてにんまりしてしまうけれど気にしない。<br />
ふと顔を上げると視線の先ではさっきの彼と目が合って、お礼の意味もこめてひらひらと手を振ったら、また顔を真っ赤にしてレジに向かっていった。<br />
また来よう。<br />
もしかしたらもう一回くらいポテトサービスしてくれるかもしれないしね!</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
　*　*　*</p>
<p><br />
『学生バイトで始めたら案外性に合っていたようで、いつのまにか店長になってた』</p>
<p><br />
その人はとてもレアな人だった。<br />
学校の最寄り駅に程近いファーストフードは、放課後に来るといつも学生でにぎわっている。<br />
自分もその中の一人で、ポテトをつまみながらファインや友達とおしゃべりしたり、キャラメルラテ片手に学校の課題をこなしたり、暑い日にはストロベリーシェイクで涼んだりしている。<br />
座る場所はいつも決めている。<br />
入り口のすぐ横のボックス席は、外の空気が入ってくるのと人の出入りが多くて騒がしいのが敬遠されるのか、大抵空いていた。<br />
そしてそこは、カウンターの中がよく見えた。<br />
いろんな機械がおかれたその中にはせわしなく動き回る店員たちがいて、皆一様に赤や青のシャツに黒いエプロン姿で同じ帽子をかぶっている。<br />
その中に一人だけ、グレーのシャツに色鮮やかなリボンタイをして黒のベストを着た人がいる。<br />
帽子は皆と同じなはずなのに、そこから覗く鮮やかな金髪が彼だけなにか特別なように感じさせられた。<br />
いつもいるわけじゃない。<br />
レインだって学校帰りによく寄っているけれど、見かけることのほうが少ない。<br />
だから会えた日は(といっても一方的に眺めているだけだが)、いい日だと思う。<br />
たとえて言うなら、朝の占いで自分の星座が一番だったときのような。<br />
たいしたことじゃないけど、結構嬉しい。<br />
それも今日はレジで注文をとっているなんて、とても珍しい光景だった。<br />
柔らかく笑う目元とか、メニューを指し示すちょっと骨ばった指とか、後ろを振り返ったときの首筋のラインとか。<br />
気づかれないのをいいことに、これでもかという程ガン見した。<br />
しばらくして客足も途絶えた。<br />
少し休憩しておいでと他の店員たちに声をかけている声が途切れ途切れに聞こえて、それからレジには彼一人になった。<br />
あんまり見つめるのは、そろそろ気づかれるかも知れない。<br />
自分の手元を見ると期間限定の青くて綺麗な色の炭酸は底が見えそうで、氷がかなり解けて薄くなっていた。<br />
ちょうどいい、かもしれない。<br />
ぬるくなったそれをゴミ箱に捨てると、一直線にレジに向かった。</p>
<p>「ご注文ですか?」</p>
<p>出て行くどころかまたもレジに向かってきたレインに不審げな表情ひとつすることなく、にこやかに声をかけてきてくれた。<br />
こうやって直接話をするのは初めてで、胸がときめく。<br />
近くで見ると、綺麗な赤い瞳をしていた。</p>
<p>「えっと&hellip;」<br />
「はい?」<br />
「ああぁぁあぁの、」</p>
<p>つい声がどもってしまう。<br />
落ち着け落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながらさまよわせた視線が、カウンターにあるメニューを捕らえた。<br />
うん、大丈夫。<br />
だってメニューにも載ってるもん、一番隅っこだけど。<br />
頑張れあたし。</p>
<p>「スマイルくださいっ!」</p>
<p>ひかれたらもう二度と来ないよしそうしよう。<br />
言い逃げする準備だけしたら、意を決してメニューから顔を上げた。<br />
さっきまで優しげに微笑んでいた彼の顔は。</p>
<p>無表情だった。</p>
<p>アウトーーーーーー!!<br />
もう駄目だ。<br />
二度とこの店には来ない。<br />
ていうか来れない。<br />
ゴメンナサイして出口へＧｏ!だ。</p>
<p>「大変申し上げにくいのですが」</p>
<p>謝るのも忘れて反射的に逃げかけた腕をつかまれた。<br />
ビクビクしながら見上げると、口元だけわずかに微笑んでいる、ように見えなくもない。</p>
<p>「ただいま品切れでして」</p>
<p>でも目は絶対笑ってない。<br />
正直、怖い。</p>
<p>「あちらから再入荷いたしますので、ご足労願えますか?」</p>
<p>指差した先は立ち入り禁止の札が貼られた従業員扉。<br />
つかまれた腕はそのままに、有無を言わせず強制連行。<br />
ちょっとどこ行くんですか。<br />
ちょーーー怖いんですけどーーーーーーー!?</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
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    <published>2014-03-19T16:01:00+09:00</published> 
    <updated>2014-03-19T16:01:00+09:00</updated> 
    <category term="短編" label="短編" />
    <title>ぷりんせす　Lv1.5</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>&nbsp;</p>
<p>剣技の稽古が早めに終わって少し時間をもてあましていたブライトは、ふと思い立って城の裏庭を散策していた。<br />
裏庭と言っても明るく開けた場所で、毎日庭師たちが丁寧に手入れをしているから、季節の花たちが咲き乱れている。<br />
中でも目を引いたのは、淡いピンクの桜草。<br />
花壇の前面を覆いつくすように植えられていて、ピンクと緑のコントラストがとてもきれいだ。</p>
<p>「あれ&hellip;?」</p>
<p>そのコントラストの下のほう、花壇の端になにか青いものが落ちている。<br />
庭師の誰かがスコップでも忘れたのだろうか。</p>
<p>「違う、卵だ&hellip;」</p>
<p>近づいてみて手にとってみる。<br />
淡い青色をしたそれは、ほんのりと暖かい。<br />
どこか木から落ちてしまったのだろうかと見渡してみるけれど、どこにもそれらしいものは見当たらなかった。</p>
<p>「お前の親はどこにいるんだい?」</p>
<p>問いかけてみるもののもちろん返事はなく、けれどそのまま置いておくのもためらわれて、とりあえず自室に持って帰ることを決めた。<br />
途中出会った侍女の一人に真綿を手配し、部屋に戻る。<br />
まだ暖かいからきっと温度を整えてやれば孵るだろう、そう思っての行動だった。<br />
だが、いざ温めるとなるとどうしたらいいのだろう。<br />
季節は既に春を迎え、ストーブのある時期でもない。<br />
さてどうしようと考えて、とりあえず自分のベッドに腰掛けつつ重ねた布団の上に卵を置いた。</p>
<p>コツ。</p>
<p>今、音がしたような。</p>
<p>コンコン。</p>
<p>あっと思う間に、卵にひびが入り、ぱらぱらと殻が剥がれていく。<br />
そしてその隙間から覗いた小さな手のひら。<br />
&hellip;手のひら?<br />
さらにひょこっと出てきたもう一本の手で卵の殻を掻き分けてそれは出てきた。<br />
ブライトの存在に気づくと、ぱちくりと大きな目をしばたかせてにっこりと笑った。</p>
<p>「はじめまして、レインです!」</p>
<p>出てきたのは、小さな小さな女の子だった。</p>
<p><br />
　　　*　　　*　　　*</p>
<p><br />
真綿にくるまり、レインが眠っている。<br />
それを見てブライトはため息をついた。<br />
&hellip;どうしたものか。<br />
あまりのことに呆然とする頭は、すでに考えることを放棄気味でうまく働かない。<br />
突然目の前に現れた彼女に、どうしたらいいのか悩んでいた。</p>
<p>「小鳥が出てきたら世話するつもりだったんだけど」</p>
<p>いざ卵から出てきたのは、小さな女の子だった。<br />
あまりのことに驚いて固まっていたブライトをよそに、レインは部屋中を興味深げにきょろきょろとし、目をキラキラさせていた。<br />
その目に押されて案内しようかと興奮気味の彼女を手に乗せ一通り部屋を一周し、またベットに戻ってきた頃には疲れたのか眠ってしまった。<br />
そこへタイミングよく真綿を持った侍女が来たので、彼女を隠しつつ真綿を受け取り、その上へ寝かせた。<br />
つい隠してしまったのは、なんとなくだ。<br />
自分でもよくわからない。<br />
なんなんだろう、この気持ちも、彼女も。<br />
そんな自分を放っておいてすやすやと眠るレイン。<br />
その桜色のほっぺたを、むにと指でつついてみる。<br />
むずがるように眉をしかめ、そっぽを向いてしまった。<br />
&hellip;ちょっと可愛いかもしれない。</p>
<p>「小鳥と同じだと思えばいいか?」</p>
<p>今更放り出すわけにもいかないし、と自分に言い聞かせてみる。<br />
なんとなく、にぎやかになりそうな予感がした。</p>
<p><br />
　　　*　　　*　　　*</p>
<p><br />
いつもなら母や妹と共にすることが多いティータイム。<br />
今日は読みたい本があるからと自室に引きこもって、けれどその実レインと二人で過ごすいつもと違うティータイム。<br />
お茶請けは専属パティシエ自慢のマドレーヌだった。</p>
<p>「そんなに急がなくても逃げたりしないよ」</p>
<p>やはりというか甘いものが好きらしいレインは、またも目をキラキラさせていた。<br />
半分にちぎったマドレーヌを渡すと、すごい勢いで食べ始める。<br />
彼女の顔よりも更に大きいマドレーヌがあっという間に半分になった。<br />
その姿はまるでリスが胡桃をかじっているような愛らしさがある。<br />
や、まぁたしかに彼女も小動物ではあるのだけれど。<br />
ようやく一息ついた彼女に紅茶を勧める。</p>
<p>「ありがとうございます」</p>
<p>律儀に礼を言うとマドレーヌをお皿において、テーブルの上をとことこと近寄ってくる。<br />
ティーカップは当然ながらブライトのものひとつしかない。<br />
身長わずか15cm程のレインは、ティーカップの横に並ぶ。<br />
ソーサーの縁に立つ彼女に、ブライトはティーカップを少しだけ傾けてあげた。<br />
んっ、と一生懸命に紅茶と格闘する姿は可愛らしいといえなくもないが、それより何より飲みにくそうである。<br />
見かねたブライトは、ティースプーンに紅茶をすくい、彼女の口元にそれを寄せた。<br />
やはりレインはんっしょと言いながら一生懸命スプーンの紅茶を飲み干している。<br />
多少ましになったとはいえ、相変わらず飲みにくそうである。</p>
<p>「なにか、考えないとな&hellip;」</p>
<p><br />
　　　*　　　*　　　*</p>
<p><br />
「貸してほしいのもがあるんだけど」</p>
<p>午前の剣技の修練後に妹を訪ねた。<br />
そういえば昔まだ妹が幼かったころに、人形遊びをしていたことがあった。<br />
時折つき合わされるそれは男子としては退屈だったが、時たま妹の発想や発言に驚きがあり、案外自分を飽きさせなかった。<br />
そのとき人形たちが使っていた家具やら食器やらはもちろん人形サイズで、レインが使うにはぴったりかもしれないと思い立ったのが昨日の夜だった。<br />
一国の姫である妹用に特別にしつらえられたそれらは、子供のおもちゃとして十分すぎるほどであったように今なら思う。<br />
まさかそんな代物をほいほいと捨てるはずもないだろうからと尋ねてみた。</p>
<p>「もちろんとってありますわ。ちょっと待っていてくださいな」</p>
<p>知り合いの子供が使いたがっているという言い訳も用意はしていたのだが、特にいぶかしむこともなく手渡されたそれは、記憶の中のそれよりもさらに小さく見えた。<br />
さっそく自室に持ち帰り、出窓で日向ぼっこをしていたレイン前にそれらを広げる。<br />
白木をアンティーク調に削りだし、細かな意匠が施されたベット。<br />
これまた同じ白木でできた直径18cmほどのテーブルと、それとそろいの椅子が4脚。<br />
その椅子にはかわいらしい花の刺繍が施されたピンクの布が張ってあり、すわり心地もよさそうだ。<br />
もちろんベットとそろいの細かな意匠が施されている。<br />
その横に置いた箱の中には、陶器の食器。<br />
お皿はもちろんカップやソーサー、花瓶までどれも真っ白な陶器に鮮やかな青いインクで上品な蔦や花の柄が描かれている。<br />
おまけに銀色のフォークやスプーンまでついている。<br />
どれもこれも、王室の人間が使うにふさわしいといったたたずまいでそこにある&hellip;その小さなサイズを除けば。</p>
<p>「これどうしたんですか!?」<br />
「&hellip;借りた」<br />
「へーすごーい!!」</p>
<p>これに小躍りしそうな勢いで喜んだのはもちろんレインだ。</p>
<p>「使ってみていいですか??」<br />
「もちろん。どうぞ」</p>
<p>彼女のために用意したのだから当然なのだが、ここまでぴったりだとは思わなかった。<br />
レインは椅子に腰掛けてみたり、ベットに寝転んで枕を抱きしめてごろごろしたり、顔ほどの大きさもあるお皿を眺めて目をきらきらさせたりと忙しい。<br />
一通りためつすがめつすると、一脚のいすに腰掛けてテーブルに両手で頬杖をつくとしばしうっとりとした表情でまどろんでいた。<br />
少しだけ開けた出窓から風が吹いて彼女の髪をなびかせると、ふわりと揺れた髪がまるで青い絹糸のようにきらきらと光った。<br />
その光景のあまりのまぶしさについ目を細めていると、彼女がはっとした表情で勢い良く立ち上がった。<br />
その先ほどまでの愛らしい様子とは間逆のあまりの勢いに何事かと驚いていると、レインはこちらに向き直りひたりと大きな目をこぼれんばかりに見開いて口をあけた。</p>
<p>「ありがとうございますっ!」<br />
「&hellip;どういたしまして」</p>
<p><br />
　　　*　　　*　　　*</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>借りてきたミニサイズの家具達は、ブライトのベットに一番近い出窓に落ち着くことになった。<br />
今は暖かい時期だし、窓際でもそこまで冷えることもないだろう。<br />
窓の外はすっかり闇色で、月明かりに星が霞んで見えた。<br />
夕暮れ前に窓は閉めていたが、瞬く星をその目に映してレインがじっと外を眺めている。<br />
青い瞳が今は空と同じ闇色だ。</p>
<p>「もうそろそろ、消すよ?」<br />
「はーい」</p>
<p>サイドテーブルのランプを消す前に声をかければ、振り返ったレインがお行儀良く返事をした。<br />
ふっとランプを吹き消してレインを見ると、とことこと出窓の端まで歩いてきて、ぴょこぴょこと手招きする。</p>
<p>「なんだい?」<br />
「手、出してください」<br />
「手?」</p>
<p>不思議に思いながらも右手を差し出す。<br />
移動でもしたいのかと思い手のひらを上に向けると、違うと人差し指を持ち上げられた。<br />
ぶつからないように気をつけながら手をひっくり返して差し出すと、そのちいさな二本の手で人差し指の先を支えると。</p>
<p>ちゅ。</p>
<p>爪の先に口付けられた。</p>
<p>「おやすみなさい」</p>
<p>それに満足したのか笑顔で挨拶すると、そのままベットへもぐりこみ絹のハンカチの布団をかぶる。<br />
程なくしてすやすやと穏やかな寝息が聞こえた。</p>
<p>「&hellip;&hellip;おやすみ」</p>
<p>やっと硬直から解けたブライトは、既に夢の住人となったレインに聞こえないおやすみを言ってから床に就いた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</p>
<p style="text-align: right;"><br />
元ネタは王子さまLv1.5ですよー。<br />
誰得!?って感じで元ネタわかる人の方がきっと希少種なので気にしなーい!<br />
続きそうで続かないYo!!<br />
</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
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    <published>2014-01-29T10:51:58+09:00</published> 
    <updated>2014-01-29T10:51:58+09:00</updated> 
    <category term="Shirley Temple" label="Shirley Temple" />
    <title>6</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「あー&hellip;もうあと20分しかないじゃない」</p>
<p>そう言いながらもあまり急ぐ気になれない。<br />
あんなに楽しみにしていたのに。</p>
<p>「&hellip;どうしてかな」</p>
<p>そんなことわかりきっているのに自問してしまうのは、やっぱり心の整理がつかないからだろう。<br />
レインは歩いていた。<br />
周りにはちらほらと自分と同じくらいの年の女の子たちや、もっと年上であろうきれいなお姉さんが足早に歩いている。<br />
たぶん目的地も、その目的すらも一緒だと思う。<br />
今日は、J.Moonのファンクラブイベントがあるのだから。<br />
もちろんいまや飛ぶ鳥も落とす勢いのJ.Moonのファンクラブイベントのチケットなど、そうそう手に入るものではない。<br />
レインだって実際に取れたときには半信半疑で、いざ手元にチケットが届いたときにはファインが煙たがるほど文字通り踊り上がって喜んでしまった。<br />
それなのに今の自分ときたら、もうとっくに開場もしている時間にまだ会場にむかってとぼとぼと歩いている。<br />
急ぎもせず、とまりもせず。<br />
こんな行動の理由はただひとつ、数日前のブライトとの会話のせいだ。</p>
<p><br />
『君のことが、好きだ』</p>
<p><br />
熱っぽく語られた言葉は真摯で、その瞳もまっすぐだった。<br />
嬉しかった。<br />
嫌われていたと思っていたから、だからその言葉はとてもとても嬉しかったに決まっている。<br />
けれどその「好き」の意味が言葉通りの、たとえば敬愛や友愛といった意味の言葉ではないことは、その雰囲気から知れた。</p>
<p>『あの&hellip;とても、信じられません』</p>
<p>とても嬉しかったけれど、それ以上に。<br />
そういった意味で好きだと告げられたことに納得できるだけの理由を自分はもっていなかった。<br />
仕事での接点は最近やっと出来たようなもので、それまではただの事務所の先輩後輩としてせいぜいが挨拶をする程度のかかわりだったのだ。<br />
そんな状態で、彼の言葉を鵜呑みに出来るほどレインは楽天的ではなかった。</p>
<p>「&hellip;痛っ」<br />
「あ! ごめんなさいっ」</p>
<p>肩に衝撃を感じて振り返ろうとすると、既にその人は前を走り去っていった。<br />
急いでるのだろう、当然だ。<br />
普段のレインだったら、最低でも今より30分は早く来てグッツを買い占めたり席でゆっくりパンフレットを眺めたりするのが常だった。<br />
それをしなかったのはただ単に気鬱で、けれどチケットをふいにすることは出来なかった。<br />
結局は、筋金入りのファンなのだ。<br />
そんな自分にもため息をつきつつ、ずれためがねを直す。<br />
今日のレインの服装は、小花柄のひざ上ワンピースに白いカーディガンを羽織っているのはいつもよりちょっと気合の入った格好だ。<br />
だが、いつもと決定的に違う部分がある。<br />
それがメガネと頭にかぶせたキャスケットだ。<br />
細い黒縁のメガネは度なしで、自身の青い髪は束ねてキャスケットの中に押し込んでいる。<br />
更にそのキャスケットには黒髪のウィッグが取り付けられていて、傍目から見ればレインは黒髪のショートボブだ。<br />
この二つは以前事務所から渡されたもので、大抵の外出のときに使っている。<br />
このおかげで今まで街で声をかけられたことはないし、今も誰も自分が『レイン』だなどと気づかない。<br />
だから安心して外を歩けるのだが、重い足でも黙々と歩き続ければ必ずいつかは到着する。<br />
結局は開演に間に合ってゆっくりと席に着けば、それと同時に会場が暗転した。<br />
今回のイベントは、アンコールなしのミニライヴだと事前に伝えられていた。<br />
暗闇の中、彼らのデビュー曲のイントロが流れると、会場から黄色い歓声が上がる。<br />
そこはやっぱりレインも筋金入りのファンなので、感情とは裏腹に、歓声と低く奏でられるイントロのベース音に勝手にテンションが上がっていく。<br />
そして歌いだしと同時に点灯したステージライトが、二人の姿を映し出した。<br />
直に体に響く音に身を任せる。</p>
<p>「ブライトーーーーーーー!!」</p>
<p>気がつけば周りに負けないくらいの声で、ブライトを名を呼んでいた。<br />
これはもう体に染み付いたような感覚で、いっそ反射に近い。<br />
さっきまでうだうだと考え込んでいたことが全部吹っ飛んで、目の前のステージに否が応でも集中してしまう。<br />
ステージの中央でシェイドがスタンドマイクを握り締め、その横でブライトがベースをかき鳴らしていた。<br />
彼の手が好きだ。<br />
ベースの弦を力強く押さえる指、、ピックを握って浮かび上がった関節。<br />
太い弦を押さえているのに、まったく豆もタコも出来ていないきれいな指先を雑誌で見つけたときには驚いた。<br />
自分が学校の音楽の授業でアコースティックギターを弾いたときにはすぐに豆が出来てはつぶれて、でも痛みを我慢しながら弾くとまた豆が出来てはつぶれての繰り返しだったのだ。<br />
あの手が、今もベースを弾いている。<br />
そういえば撮影のときに差し出された手は柔らかかったな、と思い出してすぐにぶんぶんと頭を振った。<br />
隣の人が訝しげに視線をよこしたけれど、二曲目に移っていくと同時に彼女も自分もまたステージに釘付けになる。<br />
今はとにかく何も考えずに、この身を震わせる音に浸っていたかった。</p>
<p>楽しい時間というのはいつでもあっという間で、マイク越しのシェイドの声がこの曲で最後だと告げると会場からいっせいに悲鳴が上がった。<br />
苦笑しながらもまたすぐに会えるからとシェイドが告げれば、また違った悲鳴で会場が満たされる。<br />
それに応えるようにブライトがベースを弾けば、レインはまたも爆音に飲み込まれていく。<br />
耳に心地よく響くシェイドの声、けれど自分がつい追ってしまうのは体を震わせるようなベース音だった。<br />
リズムを取ってうっとりと浸っていたら、それもいつの間にかふつりと消えてしまう。<br />
別れを惜しむ声が客席のそこかしこから聞こえた。<br />
事前通達どおりのミニライブはそれこそあっという間で、アンコールもないから笑って手を振りながらステージを去っていくブライトについ手を伸ばしてしまう。<br />
ちょうどそのとき指の先に見えたブライトが、ジャケットのポケットを探って何かをばら撒いた。<br />
ピックだ、と理解したときには既に別の誰かの手に収まっていて。<br />
大きな会場でのライブ中にバズーカから放たれるロゴ入りのテープはレインも何度も手にしたことがあるけれど、彼らの手から直接投げられる何かを取れた事はなかった。<br />
今回も無理だったかなとあきらめ半分もう一度ステージを見やれば、にこりと微笑むブライトと目が合った。<br />
たぶんこの辺一体の全員が思ったことであろうそれをレインも思う。<br />
いいのだ、こーゆーことは所詮自己満足だ。<br />
弁えているつもりでも、つい顔がにやけてしまう。<br />
これで気持ちよく帰れると思っていたところに、ブライトがもう一度何かを投げた。<br />
反射的に手を伸ばす、とそれはキレイな放物線を描いて、レインの手の中にすとんと納まった。</p>
<p>「&hellip;っ!?」</p>
<p>あまりの出来すぎな出来事にしばし声を失う。<br />
恐る恐る握り締めた手を引き寄せてからそっと開けば、確かにそれはそこにあった。<br />
角が丸みをおびた逆三角形のそのピックは、光沢のある濃紺の地にシルバーのインクでJ.Moonのロゴが印刷されている。<br />
物販でもピックは割と人気があって今まで何種類か販売されているのは知っていたが、いつかステージから投げられたものがほしいと思ってファングッツでも唯一ピックだけには手を出していなかった。<br />
それが、こんなカタチで願いがかなうなんて。<br />
それも、こんなときに。<br />
複雑な思いでピックのふちを指でなぞり、なんとはなしに裏返してみた。<br />
そこには同じシルバーの印刷でブライトの名前があった。</p>
<p>「&hellip;なに、これ」</p>
<p>最初は汚れかと思った。<br />
そんなに汚れるほどの使用済み品―たとえば今のライブ中に使っていたとか―だったら嬉しいけれどと思ったが、よく見れば黒いマジックか何かで書かれているようだ。</p>
<p>『to R』</p>
<p>手書きで書かれた文字がそこにはあった。<br />
ファンに向けてならばtoFとかFANとかそのまま書くだろうに、Rとは。</p>
<p>「レイン、へ&hellip;?」</p>
<p>まさか、と思って首を振った。<br />
そんなこと、あるわけがない。<br />
そもそもこのイベントに来ていること自体知らないはずだ。<br />
まさか知っていてもどうしてそんなこと&hellip;と思いかけて、心当たりを思い出す。<br />
この前ブライトに告白されて、でも信じられないからと自分が返した答えは否だった。<br />
その気持ちを信じさせるためにやったのだとしたら&hellip;?<br />
嘘だ、それこそありえないと何度も首を振る。<br />
気がつけばステージは空っぽで、会場を後にするものが多くまばらになってきていた。</p>
<p>「ちょー嬉しい!」<br />
「いいなーあたしも欲しかったなぁ&hellip;」</p>
<p>ふと近くで声が聞こえて、それがきっと同様にピックを受け取った誰かの会話だと悟った。<br />
つい気になって声をかけてしまう。</p>
<p>「あの、良かったら見せてもらえませんか&hellip;?」<br />
「え? あ、いいですよー」</p>
<p>よっぽど嬉しかったのだろう彼女は、突然話しかけた見ず知らずのレインにも警戒することなく微笑みかけてくれた。<br />
ライブ後の独特の高揚感も手伝っているのかもしれない。<br />
ともかくありがたく受け取ったレインは、その彼女が投げられたピックを見つめた。<br />
なんの変哲もない、自分が持っているものと同じそれ。<br />
けれど何度裏返したり角度を変えてみてみたりしてもただのピックで、手書きの文字らしきものは見えなかった。</p>
<p>「あの&hellip;もういいですか?」<br />
「あ、ごめんなさい! ありがとうございました」</p>
<p>あまりにもまじまじと見ていたレインにさすがに不審に思ったのか声をかけてきた彼女に、慌ててそれを返すと、二人は連れ立ってそそくさと去っていった。<br />
頭の中を何度も、まさか、でも、が繰り返す。<br />
まさかそんな、信じられるわけがない。<br />
自分のためだけに、ブライトがピックを投げたなんて。<br />
でも、ほかのピックには、何も書かれていなかった。<br />
Rはレインなんじゃないか、信じてもいいんじゃないか。<br />
ぐるぐるとした思考が止まらず、足元もふらふらとおぼつかない。<br />
けれど目の前には、一部のファンによる出待ちの列があった。<br />
きっと出てくることはないのはわかっている。<br />
自分が大好きなブライトが出てくるかもしれないと思うと一緒に並んでいつまでだって待っていたいと思うし、自分だってアイドルの立場上出待ちされるのは嬉しくないわけではなかった。<br />
けれど会場などにかかる迷惑や結局彼らの移動に支障が出ることを考えるとあまり混ざる気にはなれない。<br />
それなのに、その隅にぽっかりと空いた場所がまるで自分を呼んでいるようで、ついつい足が向かってしまう。<br />
過去、レインも何度も出待ちをしていたことがある。<br />
けれど自分が芸能活動を始めてからは、バレるのを避けるためと演者側の都合を考えるようになったことと両方の理由で自粛していた。<br />
久しぶりのそこは、皆がJ.Moonのファンということもあってかどこか和やかな空気がありつつも、ライブ後に二人が出てきてくれるのではないかという微かな期待に一種独特の熱気があふれていた。<br />
そんな空気に浸るのももちろん久しぶりだ。<br />
以前は純粋に、大好きなブライトへ大きく手を振っていたのに、今は。<br />
握り締めたピックを複雑な思いで見つめた。<br />
嬉しい、けれど。<br />
今までファンとして好きだったから、悲しいときもつらいときも嬉しい時だって、彼らの曲に励まされてきた。<br />
それが目の前で、大好きなブライトが「好きだ」と告げてくれて、それはたぶん恋愛感情からの気持ちで。<br />
確かに信じられなかったけれど、それに素直にYesと答えられなかったのは、たぶん戸惑ってしまったからだ。<br />
そりゃファンなのだから、付き合ってみたいとか愛されてみたいとか考えてみたことはないとはいわない。<br />
それを突然目の前に突きつけられて―&hellip;。<br />
また沈み込みかけた思考を、周りから黄色い歓声が上がってはっと我に返る。</p>
<p>「シェイドーーーーー!!」<br />
「ブライトー! こっち向いて!!」</p>
<p>なんとそこには、当のJ.Moonのふたりがにこやかに出てきたではないか。<br />
今まで出待ちをしていて、ファンサービスに出てきてくれたことなんか一度だってなかったのに。<br />
あ、また目が合った。<br />
ゆっくりとファンと握手をしたりサインに応えたりしながらこちらに近づいてくるブライトと目が合ったと、また勘違いをする。<br />
やめて欲しい、そんなにタイミングよく出てきて自分を揺さぶるのは。<br />
いっそこの場を立ち去ろうかとも考えるが、足が動かない。<br />
そもそもそんなこと、自分に出来るわけがないのだ。<br />
思考回路だけがぐるぐると回り、結局答えも出ず、そうこうしているうちにブライトがすぐそこまで来ていた。<br />
これもまた反射的に、ピックを握った手をブライトに差し出して彼の名を呼んでいた。</p>
<p>『レイン』</p>
<p>今度こそ本当に目が合って、ふわりと笑った彼の口元が、声には出さずに自分の名を呼んだ。<br />
あぁ、気づいてたんだ。<br />
それがわかった瞬間に、体中を甘い痺れが駆け抜ける。<br />
どうして気づかなかったんだろう。<br />
どうしてさっさと認めずに、うじうじと言い訳ばっかり考えていたんだろう。<br />
こんなに、ブライトが大好きなのに。</p>
<p>「これで、信じてくれる気になった?」</p>
<p>ピックを差し出すように伸ばした手をそのまま掴まれ、ふわりと抱きしめられる。<br />
途端に上がった周りの喚声よりも、耳元にささやかれたブライトの声に心臓がどきどきと異常ないくらいに跳ね上がって、ただこくこくと頷くしか出来なかった。</p>
<p>「わたしも&hellip;大好きですっ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;"><br />
『片思い卒業記念』<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>rxf.futatsutomoe.com://entry/69</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://rxf.futatsutomoe.com/shirley%20temple/5" />
    <published>2012-07-10T13:46:12+09:00</published> 
    <updated>2012-07-10T13:46:12+09:00</updated> 
    <category term="Shirley Temple" label="Shirley Temple" />
    <title>5</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	それなら二人のほうが都合がいいだろうと、空いている会議室を借りることにした。<br />
	会議室といっても長テーブルとパイプ椅子があるだけで、数人が入ればいっぱいという程度の場所。<br />
	そもそもがレコーディングスタジオに付属の施設で、大人数が入ることがまずないからこんなものだ。<br />
	二人で話そうといったものの、その言葉に当のレインは驚きの表情を浮かべ、回りのスタッフ達も一瞬ではあるが凍りついたのがわかった。<br />
	&hellip;自分の過去の態度はそんなに酷かったのだろうかと少し落ち込む。<br />
	しかしそんな空気には気づかなかったふりをして、レインを会議室へと促した。</p>
<p>
	「で、話っていうのは?」</p>
<p>
	パイプ椅子のひとつに腰掛けると、机の角をはさんだ椅子にレインが落ち着きなく座った。<br />
	俯き加減で前髪が邪魔をして、その表情ははっきりとは伺えない。<br />
	ひざの上できゅっと握り締められた手が、彼女の緊張を表しているようでなんともいえなかった。</p>
<p>
	「あのっ&hellip;今回は、が、楽曲提供をしていただいて、ありがとうございました!」<br />
	「あ、うん&hellip;いや」</p>
<p>
	意を決したようにばっと顔を上げてまくし立てられた言葉は、かなりろれつが回っていなかったが、その必死さだけはうかがえた。<br />
	勢いに押されつつも何とか返事を返すと、彼女も少しほっとしたようでかすかにその顔から緊張が消えたような気がした。</p>
<p>
	「良かった&hellip;どうしても言いたかったので」<br />
	「?」<br />
	「本当に、嬉しかったんです&hellip;!」</p>
<p>
	それはどうやら心からの笑顔のようで。<br />
	今まで緊張した顔ばかり見てきたせいだろうか、どこか新鮮で鮮烈な笑顔だった。</p>
<p>
	「喜んでもらえたなら、嬉しい、よ」</p>
<p>
	あまりの眩しさに、返事をするのもやっとだ。<br />
	なんとか自然に返せたと思ったのに、彼女の顔はすぐにまた曇ってしまう。<br />
	ころころとかわる表情についていけず参ってしまいそうだ。</p>
<p>
	「嬉しかったんですけど&hellip;」<br />
	「なに、かな? もしかして気に入ってもらえなかった?」</p>
<p>
	問えば慌てて首を振った、そんなことありませんと。<br />
	なら、どうしたと言うのだろう。<br />
	依頼を受けた当初は嫌々ながらに曲を書いたが、その曲自体に手を抜いたつもりはまったくない。<br />
	だからそれなりにいい曲を作ったと思っている。<br />
	そもそも彼女の口から自分のファンだと言うことを聞いていたのだから、この曲に喜んでいないと言うこともないだろう。<br />
	ならば、なぜ。</p>
<p>
	「自信が、ないんです&hellip;」</p>
<p>
	またも俯きがちにぽつりと語られたその言葉。<br />
	まだデビューして間もなく、レッスンだって時間の許す限りしてきたけれどそれでも、足りているのかどうかわからない。<br />
	たくさんのファンが大好きだよと言ってくれるものの、それに応えられているのだろうか。</p>
<p>
	「さっきレコーディングを見てくれてましたよね? なにかアドバイスとかあったら、お願いします&hellip;!」</p>
<p>
	立ち上がって、ぺこりとお辞儀をする彼女に驚いた。<br />
	純粋に、尊敬すらした。<br />
	足りないところがないか、ちゃんとファンの期待に応えているだろうか、自分に出来ることはないか。<br />
	しっかり考え、他人に頭を下げることも知っている。<br />
	こんな彼女のことを避けていたなんて、自分はなんて馬鹿だったんだろう。<br />
	こんなに、一生懸命なのに。<br />
	だったら自分の答えは決まっている。</p>
<p>
	「君に、言えることはなにもないよ」<br />
	「え&hellip;?」</p>
<p>
	彼女の顔がみるみる強張っていった。<br />
	突き放されたと受け取ったのだろうか。<br />
	それに気づいて、慌てて否定する。</p>
<p>
	「あ、ごめん、そういう意味じゃなくて&hellip;なんて言ったらいいのかな」</p>
<p>
	自分でもうまく伝えられる自信がなくて、腕を組んで言葉を捜す。<br />
	彼女の表情も少しだけ緩んで、じっとこちらを見つめてきた。<br />
	真剣な彼女に、自分も同じだけ真剣に答えたい。</p>
<p>
	「レコーディングも見せてもらったけど、君は君の思うように歌ったらいいと思う」</p>
<p>
	あくまで曲を書いたのは自分だけれど、それを歌うのはレインだから。<br />
	レインが感じたままを、歌いたいように、歌ったらいいと思う。<br />
	中には細かく指示をする作曲家やプロデューサーもいるのだろうけれど、自分は特にそういうことはしてこなかった。<br />
	J.Moonの曲として、シェイドが歌うときはまた別の話だが。<br />
	そもそも彼女へ口出しする立場ではないし、彼女自身のプロデューサーの意見もあるだろう。<br />
	それになにより。</p>
<p>
	「あの曲はもう、君のものだよ」</p>
<p>
	だから好きに歌って欲しい。<br />
	それが素直な気持ちだ。<br />
	こんなふうに思えるようになったのは、自分の心境の変化が大きいと思うのだが、それはあえて言う必要のないことだ。<br />
	いろんな言葉を考えて、結局その中から選んだ言葉はわずかばかりだったけれど。<br />
	うまく、伝えられただろうか。</p>
<p>
	「ほんとに、いいんですか&hellip;?」<br />
	「もちろん」<br />
	「ぜったい?」<br />
	「絶対」</p>
<p>
	訝しげに交わされた押し問答の末、ようやく彼女も納得してくれたようだった。<br />
	その表情にもやわらかいものが戻り始める。<br />
	それを見て自分もやっと、ほっと息をついた。<br />
	やはり、彼女は笑っているほうがいい。</p>
<p>
	「本当に、ありがとうございました」<br />
	「いや、たいしたことは何も」<br />
	「これからのレコーディングも頑張ります!」</p>
<p>
	やっと、穏やかな雰囲気が流れ始めた。<br />
	最初からきっとお互い緊張しっぱなしで、その上で仕事の話しなんてしたものだから、ゆっくりと会話するなんて空気じゃなかった。<br />
	ふと目が合って、同時に笑った。</p>
<p>
	「よかった&hellip;」<br />
	「え、なに?」<br />
	「あ! なんでもないです&hellip;それじゃ」</p>
<p>
	かすかに聞こえた声がうまく聞き取れなくて聞き返すと、しまったというような顔で慌てて背を向けられた。<br />
	すぐに去っていってしまいそうな彼女の手を立ち上がって掴んでしまったのは、まだ一緒にいたいという反射的な感情と純粋な疑問。<br />
	よかった、ってどういう意味だ?</p>
<p>
	「本当に、なんでも&hellip;」<br />
	「なんでもないならこっちを向いてくれ」</p>
<p>
	やっと彼女の笑顔が見られたと思ったのに、すぐまたこれだ。<br />
	自分はまた、何か言ってしまったのだろうか。<br />
	先ほどまでの穏やかな空気が嘘だったかのように、部屋がしん&hellip;と静まり返る。</p>
<p>
	「言ってくれないなら、この手は離さない」</p>
<p>
	しぶしぶと困ったように、こちらをうかがうように見上げてくるその瞳は、またすぐそらされ、俯いた。<br />
	まるで、この部屋に入ってきたばかりのようだ。</p>
<p>
	「あの、私&hellip;」<br />
	「何を言っても、怒ったり怒鳴ったりしないから」</p>
<p>
	何度も言いよどむ彼女を見かねてそう言った。<br />
	少しかがんで、視線の高さを合わせる。<br />
	すると、やはり目は逸らされたまま、彼女がぽつりぽつりと語りだした。</p>
<p>
	「私、あの&hellip;ずっと、ブライト様に嫌われていると思ってたので」<br />
	「それは誤解だ! &hellip;って、すまない」<br />
	「いえ&hellip;」</p>
<p>
	つい声を荒げてしまったのを、即座に謝る。<br />
	正確には、誤解ではなかった。<br />
	確かに、以前の自分は彼女のことを拒絶しているように見えただろう。<br />
	それも自分勝手な理由で。<br />
	けれど、今は違う。<br />
	彼女の優しさやその真剣さを間近で知り、もっと知りたいと思う。<br />
	それなのにこの状況が、スタッフたちの対応や今までの経緯がそれを阻む。<br />
	自業自得だ。<br />
	どうしたら、信じてもらえるのだろうか。</p>
<p>
	「本当に誤解なんだ&hellip;」</p>
<p>
	そのとき思いついた。<br />
	迷ったのは一瞬。<br />
	それしか、ない。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	「君のことが、好きだ」</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	『はにかみを数えて』</p>
<p>
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
  </entry>
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    <id>rxf.futatsutomoe.com://entry/68</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://rxf.futatsutomoe.com/shirley%20temple/4" />
    <published>2012-06-07T13:47:41+09:00</published> 
    <updated>2012-06-07T13:47:41+09:00</updated> 
    <category term="Shirley Temple" label="Shirley Temple" />
    <title>4</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<br />
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	思い返せば、一目惚れだったのだ。<br />
	彼女を見た瞬間に反射的に思った、必ず売れる、と。</p>
<p>
	『ファンなんです&hellip;!』</p>
<p>
	けれど彼女のその一言が、反射的にブライトを身構えさせた。<br />
	トラウマと言って良いほどの過去の経験が、必要以上に警戒心を煽る。</p>
<p>
	『今すぐやめたほうがいい』</p>
<p>
	今思えば、好きな子を苛める子供の心理に似ていると思う。<br />
	なんてガキだったんだ、とも。<br />
	それがこのミュージックビデオの撮影を機に考えが一変した。<br />
	いやむしろ、変に偏ってしまったセカンドインプレッションを取り去ったと言うべきか。<br />
	一見穏やかに見えるけれど、好奇心に満ちてきらきらと光る碧い瞳。<br />
	それを縁取るまつげと長く伸びた髪は紺碧の海のようだ。<br />
	すらりと伸びた手足に、白い肌はしかし健康そのものの薄紅色を宿している。<br />
	容姿だけではない、かもし出すその雰囲気が。<br />
	ブライトを捉えて離さなかった。</p>
<p>
	「隣のスタジオでレコーディングがあるんだが、一緒に&hellip;」<br />
	「一緒に行ってもいい」</p>
<p>
	ギターを抱えて譜面をにらみながらもその実、頭の中は青い色でいっぱいだった。<br />
	シェイドが言う隣のスタジオでレコーディングをやっているのは、そのレインだということは同じ事務所の先輩であり作曲者である自分は当然知っているわけで。<br />
	だからシェイドが誘いの言葉を告げた瞬間、反射的にその誘いに同意する返事を返していたのは、やっぱり頭の中が青で埋め尽くされていたからだろう。<br />
	少し気になるのは、最近のシェイドはどうもあの後輩たちを構い過ぎるということ。<br />
	まさか彼も&hellip;なんて考えないでもなかったが、まぁそんなことはありえないだろう。<br />
	やはり彼女たちは売れるという自分の直感と同じものを、彼も感じているのではと一人納得した。<br />
	早速二人連れ立って、隣のスタジオへ向かう。<br />
	スタッフに席をはずすと声をかけると、その行き先を聞いた別のスタッフがちょうど良かったと箱いっぱいのシュークリームを差し出してきた。<br />
	手土産が出来たことに素直に礼を言う。<br />
	シェイドがありがたく受け取り、二人連れ立って歩いた。</p>
<p>
	「珍しいな」</p>
<p>
	その言葉を聞くのはここ数日で何度目だろうか。<br />
	きっとシェイドだけでなく、近しいスタッフたちは自分がレインを嫌っていると思っているのだろう。<br />
	歌番組で軽く顔を合わせる程度で、事務所ですれ違うことすらほとんどなかった。<br />
	きっとマネージャーたちが打ち合わせて被らないようにしていたのだろう。<br />
	しかし結局のところ事務所の都合で彼女たちのために作曲をし、ミュージックビデオに出演まですることになり、スタッフたちはどう思ったのだろうか。<br />
	確かに撮影当日も必要最小限の接触だけで、それ以外はまったく話すこともなかった。<br />
	あれからも、彼女には会っていない。<br />
	それが良かったのか悪かったのか。<br />
	今この胸に渦巻く感情に、自分でも戸惑うほどに驚いている。<br />
	だからシェイドの問いに、言い訳のように返してしまった。</p>
<p>
	「僕が書いた曲だ、中途半端に歌ってほしくない」<br />
	「&hellip;お前らしいよ」</p>
<p>
	含むように笑ったシェイドの目は、共犯者のそれ。<br />
	今までずっと、シェイドを歌わせるためだけに曲を書いてきた。<br />
	そして彼は見事に歌い上げてきた。<br />
	それが、『J.Moon』だ。<br />
	どうやら彼の疑問を解くには十分な発言で。<br />
	青でいっぱいの頭から出た言い訳にしては上出来だったようだ。<br />
	半分は本当なわけだし。</p>
<p>
	「おはようございまーす」</p>
<p>
	扉を開くと同時にまず声を出した。<br />
	自分たちを見たまわりのスタッフたちが少し驚いた顔を見せたが、すぐににこやかに挨拶を返してくれる。<br />
	同じスタジオ、同じ事務所なだけあって、顔見知りのスタッフも少なくない。<br />
	シェイドが持っていたシュークリームを差し出すと、近くにいた女性スタッフが喜色を浮かべて受け取ってくれた。</p>
<p>
	「ありがとうございます! きっと二人も喜びますよ!!」<br />
	「その二人は?」<br />
	「レインは今レコーディング中なんですけど&hellip;」<br />
	「あ、ファインは休憩中ですよ。 呼んできますね」</p>
<p>
	気を使わなくていいと言う間もなく、別のスタッフが部屋を出て行く。<br />
	勧められるままに、近くにあったソファに腰掛けると、すぐにファインがスタッフに伴われてやってきた。</p>
<p>
	「あ! シュークリーム!!」<br />
	「こらファイン!」<br />
	「あ、ごめんなさい&hellip;先に、お礼だった! どうもありがとうございます」</p>
<p>
	ぺこりとおじぎをしたファインに、マネージャーが隣で一緒に頭を下げる。<br />
	その掛け合いが面白くて、シェイドと一緒につい噴出してしまった。<br />
	それを機に、和やかに歓談が進んでいく。<br />
	シェイドがファインと話し始めたので、少し手持ち無沙汰になったブライトは、近くのスタッフに話しかけた。</p>
<p>
	「あの、もし良かったらレコーディングの見学がしたいんだけど」<br />
	「レインの、ですか&hellip;?」<br />
	「えぇ、自分の歌がどんな風に歌われてるのか興味があって」</p>
<p>
	一瞬固まったスタッフの表情に、努めて明るい表情で返すと、ちょっと聞いてきますと彼が席をはずした。<br />
	自分の『レイン嫌い』はよっぽどスタッフたちの間に浸透しているらしい。<br />
	立場的には自分が上だから、気を使われるのは仕方がないのだが、さすがにちょっと驚いた。<br />
	自分で招いた事ではあるのだが。<br />
	奏効しているうちに、さっきのスタッフが扉の前で手招きをしているので、シェイドにちょっと外すと声をかけて立ち上がった。</p>
<p>
	「今集中してるんで、なるべく気づかれないように入りますよ」</p>
<p>
	口元に人差し指を立てながら話す彼に、こちらも小声でありがとうと返した。<br />
	二重扉をそうっと開くと、ふわりと聞こえてくるやさしい歌声。<br />
	マスタールームでは数人のスタッフたちが息を潜めて、真剣な表情でその声を聞いていた。<br />
	こちらに気づいたスタッフに目礼だけして、後ろ手に扉を慎重に閉めてからそのまま寄りかかる。<br />
	ガラスの向こうには、横顔のレインがいた。<br />
	大きなヘッドフォンに両手を当てて、軽く上を向きながら歌っている。<br />
	細められた目を縁取る睫毛が時折揺れて、とてもキレイだ。<br />
	そして、その歌声。<br />
	まともに聞いたのは、初めてかもしれない。<br />
	まだあどけない、幼さの残る声。<br />
	ボイストレーニングも全然足りていない、まだまだ伸びしろのある歌い方。<br />
	なのにこんなにも惹きつけられるのは、自分の贔屓目なのだろうか。<br />
	自分が作曲したはずのその歌が、頭の中で想像していたものとまったく違って、けれどとても良かった。<br />
	もっと、此処でこの声を聞いていたい。<br />
	と思ったのもつかの間、サビのワンコーラスが終わると同時にスタッフからストップがかかった。<br />
	顔だけをこちらに向けたレインが、不思議そうに声をかけたスタッフを見つめている。<br />
	ヘッドフォンから伝わる言葉に真剣に耳を傾けつつ時折軽くうなずくと、横髪が舞ってさらりと流れた。<br />
	そんな些細な仕草にすら、息が詰まる。<br />
	最後の確認とばかりにスタッフと目を合わせて、顔を戻そうとする瞬間。<br />
	彼女の視線がこちらに流れた。<br />
	目と目が、合う。<br />
	きょとんとした顔の後、一瞬で驚きに頬が赤く染まる。<br />
	そんな一連の表情が、さっきまでなんとも言えずわだかまっていた自分の感情をすとんと納得させた。</p>
<p>
	<br />
	あぁ、やはり彼女に、恋をしている。</p>
<p>
	<br />
	やっぱりというか、なんというか。<br />
	レインの集中が途切れてしまったらしく、一旦休憩を挟みますとのスタッフの声にマスタールームを追い出された。<br />
	同時にレインもブースの扉から出てきたのだが、なんと声をかけて言いのかわからない。<br />
	一瞬だけ目が合って、しかし別のスタッフに呼ばれたレインがすぐ横をすれ違って、駆けていった。<br />
	その横顔が、まだ赤いまま。<br />
	心なしか熱いため息が漏れたように聞こえたのは、自分に都合のいい錯覚だろうか。<br />
	仕方なくシェイドの元に戻ると、いまだファインと仲良さげにしゃべっていた。<br />
	自分も加わろうかと逡巡するが、あまりにも楽しそうなそれにしばしためらう。<br />
	そんな間にスタッフがレインを伴って戻ってきた。<br />
	見やるとレインはどこか思いつめたような表情で、こちらを見つめている。<br />
	心配げなスタッフに背を押されながらも、決死の表情で話しかけてきた。</p>
<p>
	「あの! 少しだけお話させてもらってもいいですか&hellip;?」</p>
<p>
	願ってもないチャンスだった。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	『あいたくてたまらない』</p>
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
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    <published>2012-06-04T14:37:35+09:00</published> 
    <updated>2012-06-04T14:37:35+09:00</updated> 
    <category term="短編" label="短編" />
    <title>微エロ妄想25題</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>
	<br />
	<font size="2">&nbsp;</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	<font size="2"><font size="2">&nbsp;</font></font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">雑踏の中で、確かの聞こえた彼女の声。<br />
	姿は見えない、いることさえ気付かなかったのに。<br />
	たったそれだけ。<br />
	その声だけで、ふわりと心が弾んだ。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>声</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">目が覚めたら、青だった。</font></p>
<p>
	<font size="2">うたた寝をしていたらしい、ソファで、しかも上を向いて大口を空けて。<br />
	突然ぱちりと目が覚めて、目の前の青、あお、蒼。<br />
	至近距離で覗き込んでくる瞳も、それを縁取るまつげも、視界いっぱいに広がる髪も、ぜんぶあお。<br />
	上から覗き込まれているせいで、彼女の髪でカーテンのように区切られて、周りがまったく見えない。</font></p>
<p>
	<font size="2">「おはよう」</font></p>
<p>
	<font size="2">あぁ、このままこの世界に埋もれていたい。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>愛ある世界</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	<font size="2">「あつい」<br />
	「じゃぁ離れる?」<br />
	「うん」</font></p>
<p>
	<font size="2">言ったくせにまったく動く気配がない。<br />
	抱きつかれた腕も、抱きついている彼女も汗まみれなのに。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>熱帯夜</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">「人工呼吸は、キスのうちに入りますか?」<br />
	「&hellip;どうしたの、突然」<br />
	「いいから答えてください」<br />
	「うーん&hellip;入る、かな?」<br />
	「じゃぁもしそんな状況になったら、その人は見殺しにしてください」</font></p>
<p>
	<font size="2">その表情があまりにも真剣でおかしくて、つい噴出したら怒られた。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>キス</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">「離しません&hellip;っ!」</font></p>
<p>
	<font size="2">前から抱きつかれて、自分の背中辺りを彼女の手がぎゅぅっと力いっぱい握っている。<br />
	見上げてくる瞳がなぜか必死で。<br />
	こんな拘束、いとも簡単にはがせるのに。</font></p>
<p>
	<font size="2">&hellip;逃げられないよなぁ。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>拘束</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">余裕がない、見栄も張れない、ただただ焦る。<br />
	なのに、愛しい。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>恋情</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">離すものか、絶対に。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>強制</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">組み敷いた白い肌に、幾つも赤い華が散っている。<br />
	額に張り付いた髪をするりと掻きあげてやると、荒くなった呼吸のままけれどうっすらと開いた瞳からすぅっと一筋の涙が流れた。</font></p>
<p>
	<font size="2">「ツライ?」<br />
	「だい、じょぶ&hellip;」</font></p>
<p>
	<font size="2">明らかに無理をしている声。<br />
	けれど、それだけではないのも確かで。<br />
	蒼い瞳が潤んでいるのは、決して痛みだけのせいではない。<br />
	宥めるように顔中にキスの雨を降らせる。<br />
	涙が消えるまで。<br />
	濡れた睫が乾くまで。</font></p>
<p>
	<font size="2">「&hellip;ァ、&hellip;&hellip;っ」</font></p>
<p>
	<font size="2">逆に濡れたのは、声とどこだろう。<br />
	いつもはめまぐるしく動くきらきらと輝く瞳が、うっとりと霞がかっていくその様子を見るのがたまらない。<br />
	従順に、愛らしく、求めてくるさまが。<br />
	だから。<br />
	求められるままに、好きなだけ、与える。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>征服欲</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">「&hellip;こんなのが好きだなんて、知りませんでした」</font></p>
<p>
	<font size="2">俯きがちに、でも気になるのかちらちらと視線がよこされる。<br />
	頬は羞恥のせいか真っ赤。<br />
	握り締めた手に力が入りすぎて、持っていたスカートの裾が大きくシワを作っていた。</font></p>
<p>
	<font size="2">「じゃぁ、これからもっと知って?」</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>プレイ</strong></font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	<br />
	<br />
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">つまんだらふに、と音が出そうな自分の二の腕。<br />
	彼のココは違うのだということを、ついこの前知った。</font></p>
<p>
	<font size="2">「&hellip;&hellip;っ」</font></p>
<p>
	<font size="2">知ったときのことを思い出して、枕に突っ伏した。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<br />
	<font size="2"><strong>腕</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">剣の稽古中の彼に気づかれないように、こっそりそれを見るのが大好きだ。</font></p>
<p>
	<br />
	<br />
	<font size="2">稽古中に感じる視線が、自分だけを見つめているのを知っているからやめられない。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>例えば君が知らないあんな事</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">目が合ったから唇と唇が触れた、それが5秒前。<br />
	うっすらと開かれた唇に舌を差し込んだのが、今。<br />
	差し出された舌を軽く吸って睫が震えるのを堪能するのが3秒後。<br />
	唇が離れるのは&hellip;何分後?</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>5秒前</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">自覚症状はない。<br />
	ただの憧れだったのだ。</font></p>
<p>
	<font size="2">昔から大好きだった。<br />
	いつもハッピーエンドで終わる、お姫様の恋物語。<br />
	最後には必ず迎えに来て、幸せにするからと言ってキスをくれる素敵な王子様。<br />
	まさにそれを具現化した人が本当にいるなんて。<br />
	だからつい、目で追いかけてしまう。<br />
	私もそうなれるんじゃないか、彼がその王子様なんじゃないかって。</font></p>
<p>
	<font size="2">たぶん、自分でも気づいていた。<br />
	ただのミーハーだって。<br />
	はしゃいで、恋愛もどきを楽しんでいるだけだって。</font></p>
<p>
	<font size="2">けれど気づいてしまった。</font></p>
<p>
	<font size="2">彼の視線のその先に、私じゃない誰かがいることに。</font></p>
<p>
	<font size="2">一気に頭に血が上った。</font></p>
<p>
	<font size="2">一気に体から血の気が引いた。</font></p>
<p>
	<font size="2">そして自覚した。<br />
	自分の中に、こんなにも熱が渦巻いていたことに。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>微熱</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">ふと思いついて、止まってみた。<br />
	あと1センチだけ動けば、互いの唇が触れ合う距離。<br />
	長い睫が伏せられて、時折小刻みに震える。<br />
	すぐに眉根が寄って、怪訝な表情になる。<br />
	ゆっくりと瞼が開き、青い瞳が露になる。<br />
	その色は、不思議そうなのと悲しいのと憤りと訝しげと戸惑いと驚きと、その他もろもろ。<br />
	すべてが絶妙にミックスされていて&hellip;最終的に泣きそうな顔になっていた。<br />
	意地悪してごめん。</font></p>
<p>
	<font size="2">「あ、&hellip;っ」</font></p>
<p>
	<font size="2">文句を言われる前にふさいでしまえ。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>焦らし</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">あれ、と思って目を開けたら真っ暗だった。<br />
	今は昼間で、ソファでうたた寝をしていた、様な気がする。<br />
	だからまだ夜には遠いと思うのだけれど&hellip;と思いながら首をめぐらそうとしたら、聞きなれた低く優しい声が降ってきた。</font></p>
<p>
	<font size="2">「動かないで」</font></p>
<p>
	<font size="2">かすかに、ほんのかすかに感じた語尾の震え。<br />
	手を持ち上げてみれば、目元には確かに彼の手があって、視界をふさいでいた。<br />
	そんなことにも気づかないくらい寝ぼけていたらしい。</font></p>
<p>
	<font size="2">「ブライト&hellip;?」<br />
	「なんだい」</font></p>
<p>
	<font size="2">やはり、おかしい。<br />
	手はどかされないし、相変わらず震えている声を隠そうとしているのだろうけれど失敗している。<br />
	きっと優しい彼のことだから、心配をかけまいと思っているのだろう。<br />
	けれどそれでも耐え切れなくて、会いに来てくれたのだと思うと、たまらなく愛しいと思う。<br />
	だから。<br />
	手探りで彼の首筋に腕を伸ばし、抱きつくように擦り寄った。<br />
	すると素直に体を預けてくる、相変わらず目はふさがれたままだったけれど。<br />
	二人分の重みで、ソファがきし、と音を立てた。</font></p>
<p>
	<font size="2">「大好きだよ」<br />
	「&hellip;僕もだ」</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>目隠し</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">「&hellip;これは苦くないから」<br />
	「うそだ」<br />
	「本当に」<br />
	「ぜったいのまない」</font></p>
<p>
	<font size="2">真っ赤な顔で唇を尖らせて言っても、可愛いだけなのに。<br />
	と思いながらも、風邪をこじらせて熱があるせいで赤い顔をしている彼女が心配でならない。<br />
	お抱えの医師がとびきり良く効くとても苦い薬を出してくれているのを経験上知っているのだろう。</font></p>
<p>
	<font size="2">「飲まないと治らないよ?」<br />
	「そんなことないもんっ」</font></p>
<p>
	<font size="2">いい加減この押し問答を何分繰り返しているのだろうか。<br />
	さすがに飽きてきて、さっさと飲ませたくて、強硬手段に出ることにした。</font></p>
<p>
	<font size="2">「あっ!」</font></p>
<p>
	<font size="2">水と薬を一緒に口に含むと、視界の端に彼女の驚いた顔が見えた。<br />
	そのあんぐりと開いた口を、そのまま引き寄せ口づける。</font></p>
<p>
	<font size="2">「んっ&hellip;ぅ、ぁ&hellip;」</font></p>
<p>
	<font size="2">こくりと嚥下したのを確認して、ついでとばかりに舌を絡めて吸い上げる。<br />
	その熱さにこっちがやられそうだ。</font></p>
<p>
	<font size="2">「よく飲めました」<br />
	「ブライトの、ばかっ&hellip;!」</font></p>
<p>
	<font size="2">早く良くなってくれよ?</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>クスリ</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">いつも振り回されっぱなし<br />
	そもそもこっちが優位に立てたことなんてあっただろうか</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>形勢逆転</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">「絶対、先に死なないでください」</font></p>
<p>
	<font size="2">ひとりにしないでと必死に訴えてきた彼女の瞳に誓った。<br />
	大丈夫、全部、見届けるよ。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>骨になるその時まで</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">「いますぐ、キスして」</font></p>
<p>
	<font size="2">って言うからしたのに。</font></p>
<p>
	<font size="2">「&hellip;ばかっ」</font></p>
<p>
	<font size="2">真っ赤な顔で怒るから。<br />
	<br />
	じゃあどうすればよかった?</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>外で</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">周囲の視線を集める彼女の笑顔が、あまりにもあどけなくて、たまらなくて。<br />
	人気のないことを確認して、その腕をつかんだ。</font></p>
<p>
	<font size="2">「え、なに&hellip;?」</font></p>
<p>
	<font size="2">振り返ったその首筋に手を添えて、もう片方の手で腰に腕を回してその身を捉えた。<br />
	一方的に、貪るように、そのクチビルを奪う。<br />
	息継ぎすらさせたくない。<br />
	彼女のすべてを、自分で埋め尽くしたい。<br />
	無意識のうちに逃げ腰になるその体を、更に強く抱きこんだ。</font></p>
<p>
	<font size="2">「ふ、ぁン&hellip;っ」</font></p>
<p>
	<font size="2">口腔の奥まで舌でなぞって、戻りながら舌先を吸い上げる。<br />
	甘く痺れるようなその声も、誰にも聞かせたくない。<br />
	全部、自分のものだ。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>衝動</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">だってほら、その腕がもう答えてる。<br />
	真っ赤な顔で、潤んだ瞳で。<br />
	一応拒絶のカタチを装っていても、ほら。<br />
	口角の隅に見える好奇心。<br />
	瞳の奥の隠せない情欲。</font></p>
<p>
	<font size="2">早く、堕ちておいで。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>突っぱねた腕の弱さ</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">ちょっとだけ、朝が弱い自覚がある。<br />
	目が覚めてもすぐには動けなくて、ベットに腰掛けたままぼうっとすることが多い。<br />
	いざ起き上がって着替えても、はっと気がつくとボタンを掛け違えていたり、靴下が左右違うなんて事もあったりする。</font></p>
<p>
	<font size="2">「&hellip;とか見られると、恥ずかしいかな」<br />
	「それ、あたしいつも見られてるんですけど!?」</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>羞恥心</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">白い項が、月明かりに照らされている。<br />
	いつもは長い髪に隠されている真っ白なその肌が、露になっていた。<br />
	象牙のように、白い。<br />
	触れるのが少し、躊躇われるほどに。<br />
	さっきまでは自分の腕の中で愛らしく嬌声をあげていた、その彼女と同じ人物とは思えないほどにその寝顔は穏やかだった。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>背徳</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">白いバラの花が一輪置かれていた。<br />
	いつの間に、と思って手に取るとそこには名刺のようなカードが置かれていた。</font></p>
<p>
	<font size="2">『あなたを、頂きに参ります』</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>白昼堂々</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">愛しい。壊したい。優しくしたい。愛されたい。<br />
	どこかに隠して独り占めしてしまいたい。<br />
	そのすべてが詰まった、蒼い瞳。</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2"><strong>蠱惑</strong></font></p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<font size="2">　*　　*　　*</font><br />
	<br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<br />
	<font size="2">いろんなところにいろんな素敵お題があってトキメキます&hellip;!<br />
	今回お借りしたのはこちらです&darr;&darr;</font><br />
	<font size="2"><a href="http://2style.jp/sui/100_attention.html">微エロ妄想25題</a></font><br />
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2">&nbsp;</font></p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	<font size="2">&nbsp;</font></p>
<p style="text-align: right;">
	&nbsp;</p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
  </entry>
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    <id>rxf.futatsutomoe.com://entry/66</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://rxf.futatsutomoe.com/shirley%20temple/3" />
    <published>2012-03-19T15:02:37+09:00</published> 
    <updated>2012-03-19T15:02:37+09:00</updated> 
    <category term="Shirley Temple" label="Shirley Temple" />
    <title>3</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>
	<br />
	<br />
	触れた指先が震えた、軽く握られただけなのに。<br />
	反射的に眉間にシワがよった、カメラの前だというのに。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	「J.Moonのお二人がはいりまーす!」<br />
	「おはようございます」<br />
	「よろしくお願いします」</p>
<p>
	スタッフに呼ばれて入ったスタジオは、既に多くのスタッフたちが動き回っていた。<br />
	この世界で挨拶はとても大事である。<br />
	たとえそれが、あまり気のない仕事だとしても。<br />
	今日の撮影内容は、今売り出し中の事務所の後輩『FR』の新曲のためのPVの撮影である。<br />
	そもそもの始まりは、マネージャーのトーマを通して伝えられた仕事からだった。</p>
<p>
	「楽曲提供?」<br />
	「あぁ、今ウチで売り出してるFRは知ってるだろう?」<br />
	「&hellip;まぁね」</p>
<p>
	あんな初対面で忘れるはずもない。<br />
	ブライトは曖昧に答えたものの、トーマは気にも留めず話を進めた。<br />
	要はトップアーティストである自分たちが、同じ事務所のよしみで後輩アイドルに曲を書いてくれと言うことだ。<br />
	事務所の上層部による命令と言っても過言ではない。<br />
	しかしブライトは断るつもりだった。<br />
	正直、気が乗らない。<br />
	それなのに。</p>
<p>
	「いいじゃないか、やろうブライト」</p>
<p>
	隣のシェイドはなぜかやる気満々だった。<br />
	曲を作るのは僕なんだが?と思わないでもなかったが、ブライトが口を挟む隙もなく、シェイドとトーマの間で話が進んでいた。<br />
	そしてなぜかシェイドの提案で、プロモーションビデオへの出演までもが決まっていた。</p>
<p>
	「勘弁してくれ&hellip;」<br />
	「何か言ったか?」<br />
	「&hellip;なんでもない」</p>
<p>
	こっそりついたため息は重いが、今更嘆いても仕方ない。<br />
	もうすぐそこに、セットは組まれているのだから。<br />
	そしてシェイドは何事もなかったかのように、挨拶に来たファインににこやかに話しかけていた。</p>
<p>
	「あの&hellip;今日は、よろしくお願いします&hellip;!」<br />
	「あぁ、よろしく&hellip;」</p>
<p>
	ブライトにも当のレインが挨拶に来た。<br />
	やや緊張しているのが傍目にもすぐ見わかる。<br />
	勘弁してくれ。<br />
	そういう面倒事は嫌いなんだ。<br />
	元々わりとドライな性格は自覚している。<br />
	ファンあってのこの仕事だとわかっているから、TVではにこやかに作り笑いをすることもある。<br />
	ライヴ中のテンションはそれとはまた違い、純粋にステージと客席の掛け合いが楽しくてたまらないから勝手に笑顔が浮かんでいる。<br />
	けれど、個々のファンをこうやって目の前にしたときは、また違うのだ。<br />
	過去、一人のファンにストーカーまがいの行為を受けたこともある。<br />
	だから今のうちに徹底して避けて通るしかない。<br />
	そう思っているから、ブライトは最低限の声かけだけして、すぐに打ち合わせへと向かった。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	設定は待ち合わせ。<br />
	けれど来るか来ないか、それすらわからずに祈るように両手を握り締めている。<br />
	アンティークなベンチに浅く腰掛け、淡い木目に散りばめられた長く青い髪が、まるでそこだけ切り取るかのように周囲から隔絶されていた。<br />
	彼女の表情は浮かない。<br />
	伏し目がちにうつむき、縁取る青い睫が時折揺れている。<br />
	だってわからない、彼が来てくれるかどうかなんて。<br />
	逸る期待、でもそれ以上に不安で押しつぶされてしまいそうになる。<br />
	こんなにもどきどきしていて今にも膝が震えて逃げ出したくなるのに、それでもここにいるのは、時折見せてくれた彼の笑顔。<br />
	俯いて思い出す、あの優しい笑顔を。<br />
	だから彼女は気づかなかった。<br />
	彼女に近づく人影かあることを。</p>
<p>
	「遅くなってごめん」</p>
<p>
	聞こえた言葉にビクリと体を震わせて、けれどまだ俯いたまま。<br />
	本当に、今聞こえたのは彼の声だろうか。<br />
	期待しすぎて、自分に都合のいい幻聴が聞こえたんじゃないだろうか。</p>
<p>
	「怒ってる&hellip;?」</p>
<p>
	その言葉にはっと顔を上げた。<br />
	そんなこと、あるわけない。<br />
	急いで否定したくて、でも言葉が出てこなかった。<br />
	裏切られなかった期待と、それでもまだ残っている少しの不安で胸がいっぱいだ。</p>
<p>
	「よかった」</p>
<p>
	そしてそこには。<br />
	まぎれもない、彼がいた。<br />
	少し困ったような顔でこっちを見ている。<br />
	そんな顔をさせてくなくて、いつもの笑顔でいてほしくて。<br />
	だから、やっとの思いで、言葉をつむいだ。</p>
<p>
	「来てくれただけで、十分、です&hellip;」</p>
<p>
	本当はそんなことない。<br />
	好きだと、言ってほしい。<br />
	でもそれはあまりにも欲張りに思えて、それしか言えなかった。<br />
	高ぶりすぎた感情にコントロールが出来なくて潤んでしまった眼が、きっと嘘だとわかってしまうけれど。<br />
	やっぱり、それも本当の素直な気持ちだから。<br />
	けれど彼は浮かない顔のままで。<br />
	どうしたら笑ってくれるのだろう。</p>
<p>
	「本当に&hellip;?」<br />
	「ぇ&hellip;?」<br />
	「ほんとに、それだけでいいの?」</p>
<p>
	言葉と共にゆっくりと差し伸べられた右手。<br />
	ずっと駄目だと諦めてきた。<br />
	だからいつも期待していても不安は消えなくて、むしろ自分で不安をあおって防御線を張って。<br />
	結局駄目だったときに傷つかないように。<br />
	ずっとずっと、そうしてきた。<br />
	だけど。<br />
	今目の前に、彼の笑顔と差し伸べられた手が、ここにある。</p>
<p>
	「&hellip;&hellip;っ!」</p>
<p>
	触れたら消えてなくなってしまうんじゃないかと今でも思ってる。<br />
	けれど、勇気を出して。<br />
	そっと、自分も手を差し出す。<br />
	そして指と指が触れた瞬間、彼の顔が微笑みに変わって。<br />
	唇の動きだけで伝えてくる、『よく出来ました』と。<br />
	それを理解した途端に、頬を涙が伝ったのがわかった。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	「いやーーーー&hellip;レインちゃんの演技、よかったねぇ?」<br />
	「&hellip;そうですね」<br />
	「最後のあの涙なんか、なかなか狙って出来るもんじゃないよ!」</p>
<p>
	本当にいい仕事をした、と監督が上機嫌で話しかけてくる。<br />
	当のレインは、撮影が終了し監督のOKが出た途端に楽屋へ戻ったようだった。<br />
	そして残されたブライトは、ほかのスタッフと共に監督と話していたのだが、その実自分もすぐに楽屋に走って行きたい気分だった。<br />
	それくらい、イライラしている。<br />
	原因は。</p>
<p>
	「それにしても、ブライトさんがNG出すなんて珍しいですね?」</p>
<p>
	出したくて出したわけじゃない。<br />
	元々音楽が専門で、俳優ではない。<br />
	今回の撮影では台詞が用意されていたけれども、実際の映像では曲が流れるだけで声は入らないであろうに、わざわざ撮影したものだ。<br />
	あまり文句は言われたくない。<br />
	それよりも、この、胸にくすぶっているなんともいえない感情を抑えて話すことのなんとつらいことか。<br />
	そばにいたトーマに目配せし、なんとか逃げる口実を作る。</p>
<p>
	「NGの件、本当にすみませんでした&hellip;次の仕事がありますので、これで失礼しますね」<br />
	「あぁ、引き止めて悪かったね。お疲れ様」<br />
	「お疲れ様でした」</p>
<p>
	そそくさと去ると、後ろでトーマがフォローしているのが見えた。<br />
	今はとにかく、ここから逃げ出してしまいたい。<br />
	足早に楽屋を目指し、あてがわれた部屋へと駆け込んだ。<br />
	誰もいないことを確かめてソファに深く腰掛けうなだれる。</p>
<p>
	「&hellip;なんだったんだ、あれは」</p>
<p>
	握り締めた右手が、熱い。<br />
	さっきの撮影中に、レインが触れた右手。<br />
	ほんの指先を少し握られただけなのに、この感情は、なんなんだろう。</p>
<p>
	「彼女のせい、か&hellip;?」</p>
<p>
	たしかに、まだ新人のたかがアイドルだと思って、ファンなんですと言われた先入観も手伝って、侮っていたところはあった。<br />
	自分だって演技が専門なわけでもない。<br />
	けれど正直、今日の彼女の演技はどうだったろう。<br />
	片思いという切ない役どころを見事に演じきっていた。<br />
	それはもう、監督はじめほかのスタッフたちがベタ褒めするくらいに。<br />
	そして自分は、その演技に、あの瞳に、のまれた。<br />
	見上げてくる青い瞳に、すべてを見透かされているような。<br />
	きゅ、とまるで音を立てたかのようになのに極々軽く優しく握られた指先。<br />
	しかしその実、電流が走ったかのような錯覚に身を震わせた。<br />
	だからNGになった。<br />
	演技の中で迎えにいったはずの自分が、逆に動揺してしまうなんて。</p>
<p>
	「動揺なんてもんじゃないよな&hellip;」<br />
	「何の話だ?」<br />
	「&hellip;いつからいたんだ」<br />
	「ついさっきだが」</p>
<p>
	戻ってきたトーマにも気づかないほど、動揺していたらしい。<br />
	大きくかぶりを振って、近くにあったペットボトルに手を伸ばす。<br />
	それを見ていたトーマが笑った。<br />
	ぬるくなった水を喉に押し込みながら、視線だけ向ける。</p>
<p>
	「珍しいな」<br />
	「&hellip;NGのことか?」<br />
	「それもある」</p>
<p>
	意味ありげに笑うトーマに更にいらだつ。<br />
	敏腕マネージャーは、普段はまったくもって隙のないほど有能だが、時折こちらの機嫌をあえて損ねるような言動をするからタチがわるい。</p>
<p>
	「もしかして、惚れたとか」</p>
<p>
	メガネの奥の瞳が、悪戯に光った。<br />
	からかうような視線は、決して本気ではない。<br />
	すぐに逸らされた視線が、手元の手帳を追いながら次のスケジュールを確認している。<br />
	だから、返す言葉も軽口で。</p>
<p>
	「まさか」</p>
<p>
	その、まさかだった。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	『指先から恋が始まる』</p>
<p>
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>rxf.futatsutomoe.com://entry/65</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://rxf.futatsutomoe.com/shirley%20temple/2" />
    <published>2012-02-28T17:55:12+09:00</published> 
    <updated>2012-02-28T17:55:12+09:00</updated> 
    <category term="Shirley Temple" label="Shirley Temple" />
    <title>2</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>
	<br />
	次の新曲について打ち合わせをするからと、放課後レインはマネージャーに呼び出された。<br />
	それはもちろんファインも一緒である。<br />
	いろいろ融通が利くからと転校させられた学校にもだいぶ慣れ、クラスメートにバイバイと挨拶してから向かった校門には、マネージやーの車以外にも別の子を迎えに来たであろう車が何台か止まっていた。</p>
<p>
	「さ、早く乗って」</p>
<p>
	マネージャーであるシフォンの顔は、心なしかいつもよりにこやかだった。<br />
	運転する手つきも、どこかうきうきとしているように見える。</p>
<p>
	「何かいいことあったの?」<br />
	「んー、ヒミツ」<br />
	「えぇー?」</p>
<p>
	ファインとレインは不満げな声を出しながら顔を見合わせた。<br />
	しかし、シフォンのそんな様子の理由もすぐにわかることになる。</p>
<p>
	「えぇ!? ブライト様が作った曲をあたしたちが歌うの!?」<br />
	「本当ですか!?」</p>
<p>
	事務所の会議室で何人かのスタッフとともに知らされたそれに、レインの目が文字通り輝いた。<br />
	ブライトが他のアーティストにあまり進んでは曲提供をしないということは、筋金入りのファンであるレインはもちろん知っていた。<br />
	まったくしないわけではないが、自分が曲を作るのはシェイドに歌わせるためだと雑誌の対談で語っていたのはファンの間では有名な話だ。<br />
	そんなブライトが、自分たちのために曲を書いてくれたのだ、嬉しくないわけがない。</p>
<p>
	「あたし、頑張ります!!」<br />
	「う、うん。あたしも頑張るよ&hellip;」</p>
<p>
	勢い込んで言ったレインにファインは若干押され気味に相槌を打つが、レインの目はここにはいないブライトを映しているようで、まったく気にかけていない。<br />
	シフォンはシフォンで、話題のアイドルが超人気バンドJ.Moonに楽曲提供されれば、これで次も大ヒット間違いなしとほくそ笑んでいた。</p>
<p>
	「二人ともその意気よ!! さっそくこれからのスケジュールの確認に移るわね」</p>
<p>
	それからのレインは今まで以上に頑張った。<br />
	放課後は毎日新曲のダンスレッスンとボイストレーニングに励む日々。<br />
	ほとんど休みもなく、家に帰ればすぐに寝てしい、起きたらまた学校ないしレッスンへ直行という生活だった。<br />
	それでもレインが頑張れたのは、ブライトに言われた言葉。<br />
	あれは間接的にではあるが『真剣にやれ』という意味だったとレインは理解している。<br />
	更にもうひとつ、頑張る理由があった。</p>
<p>
	「ブライト様とMVで共演できるなんて&hellip;!」</p>
<p>
	この新曲で、ブライトとシェイドの二人がミュージックビデオへ出演することが決まっていた。<br />
	そもそもが同じ事務所ということもあり、トップアーティストであるブライトに作曲とミュージックビデオへの出演をさせて更なる話題性を作るというのが、事務所の偉い人たちの思惑であろうことはレインも十分承知している。<br />
	そんなに長時間の出演ではない、むしろほんの少しの時間の共演になるらしい。<br />
	それでも今まではTV越しだったり、音楽番組での少しも話す事も出来ないような共演とは違い、ちょっとだけでもしっかり自分を見てもらえる。<br />
	今更認めてもらえるとは思っていないが、少しだけでも会えるということが単純に嬉しかった。<br />
	ダンスレッスンもいつになく気合が入る。<br />
	歌う曲は女の子の片思いを歌った甘酸っぱいバラードで、こっそり自分を重ねていたりする。<br />
	ただのファンだった頃は、単純にブライトもそのブライトが作った曲も大好きだった。<br />
	しかしこの仕事を始めた今では、彼の凄さが今まで以上に理解できた。<br />
	もっとブライトのことを知りたい。<br />
	もっと、もっと、大好きになれる。<br />
	そしてついに今日、そのミュージックビデオの撮影がある。</p>
<p>
	「J.Moonのお二人がはいりまーす!」<br />
	「おはようございます」<br />
	「よろしくお願いします」</p>
<p>
	スタッフの声につられてそちらを見れば、撮影用の衣装に着替えたブライトとシェイドの二人が入ってくるところだった。<br />
	それを見つけて、シフォンが駆け寄ってくる。</p>
<p>
	「さぁ二人とも行くわよ!」<br />
	「ほぇ?」<br />
	「ほぇ～じゃない! 挨拶も兼ねて打ち合わせよ!!」<br />
	「あ、そっか」<br />
	「行こう、レイン!」</p>
<p>
	大好きではあるけれど、やはり前のことがあって踏み出せないレインを、ファインが手を引き近づいていく。<br />
	それに先に気づいたシェイドがファインに声をかけた。</p>
<p>
	「今日はよろしく」<br />
	「こちらこそ、よろしくお願いします!」<br />
	「あぁ&hellip;」</p>
<p>
	敬語じゃなくていいって言ったろ苦笑するシェイドと、あぁ!と微笑むファイン。<br />
	MVでの相手役だし思い切って自分もブライトに声をかけようと、レインはファインの影で深呼吸した。<br />
	胸の前で握った両手に、きゅっと力が入る。</p>
<p>
	「あの&hellip;今日は、よろしくお願いします&hellip;!」<br />
	「あぁ、よろしく&hellip;」</p>
<p>
	なんとか声をかけたものの、一言発するとすぐに打ち合わせへと背を向けてしまうブライト。<br />
	悲しいと思いつつも、やっぱりカッコイイ&hellip;とうっとりしてしまう。<br />
	とりあえずちゃんと挨拶は出来たし、今のところは及第点ではないだろうか。<br />
	とにかく今は、そばにいられるだけで嬉しかった。<br />
	そうこうしている内に打ち合わせも順調に終わり、残すはJ.Moonとの共演部分のみとなった。<br />
	MVの前半部分は主にファインとレインのダンスシーンや、今までに個々でロケをした映像をこれから編集することになっている。<br />
	今から撮影するのはPVの後半部分で、J.Moonが出るのは更に後半も終わりかけの頃だ。<br />
	歌も終わりサビの部分をアレンジした音楽だけが流れる中で、ファインとレイン演じる片思いの女の子がまるで報われるかのように、最後シェイドとブライトが手を差し伸べる、という作りになっている。<br />
	実は当日までどちらがどちらの相手役を務めるかまでは決まっていなかったが、さっきの打ち合わせでシェイドがファインの相手役を立候補していた。<br />
	どうやら二人の間で打ち合わせていたらしく、ファインが笑顔でこっちを見ていた。<br />
	ブライトには申し訳ないが、くらくらと眩暈がしてしまいそうなほどレインは嬉しかった。<br />
	そしてついに。</p>
<p>
	「ブライトさん、お願いしまーす」<br />
	「はい」</p>
<p>
	先に撮影を終えたファインが、入れ替わりに入っていくレインに口の形だけで頑張れと応援してくれた。<br />
	その横にいるシェイドも少し心配そうにはながらも、笑顔で見送ってくれる。<br />
	あんな風にブライト様とも仲良く出来たらいいのにとレインは思う。<br />
	けれどすぐに気を取り直した。<br />
	今はお仕事なんだから、ブライトの共演者として頑張らなくては。</p>
<p>
	「よろしくお願いします!」<br />
	「あぁ&hellip;」</p>
<p>
	改めて挨拶するも、やはり冷たくあしらわれてしまう。<br />
	けれどこれからカメラの前では、笑顔を向けてくれることが決まっているのだ。<br />
	ドキドキが止まらない。</p>
<p>
	「それじゃ、シーン32入りまーす」</p>
<p>
	これは演技だ。<br />
	レインは自分に言い聞かせた。<br />
	歌の中の片思いの女の子、目の前に大好きな人がいる。<br />
	うつむき加減の自分、不安でたまらない自分。<br />
	けれど、その視界に差し伸べられた手が見えた。<br />
	彼のやさしい手が。</p>
<p>
	「&hellip;っ!」</p>
<p>
	不安と、少しの期待で見上げた彼の顔は、優しい笑顔に満ちていた。<br />
	すごく嬉しくてうれしくて。<br />
	だから、自分もその手を握ろうと。<br />
	差し伸べられたその手を&hellip;。</p>
<p>
	「カーット!! ブライト、どうした?」<br />
	「&hellip;すみません」</p>
<p>
	突然割って入ってきた声に、レインははっと体をこわばらせた。<br />
	何がいけなかったのだろうと思ったのだが、どうやらブライトに非があるらしい。<br />
	しかもブライトも自覚している。<br />
	自分にはまったくわからなかった。<br />
	なにが、いけなかったのだろうか。</p>
<p>
	「&hellip;もう一回お願いします」</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	「はぅーーー&hellip;かっこよかったよぅ&hellip;&hellip;」<br />
	「&hellip;はいはい」</p>
<p>
	その後撮影は無事終了し、着替えのためにレインは控え室へと戻った。<br />
	どうだった?と声をかけてくるファインの声を振り切って、ソファに置かれたクッションめがけてダイブして撮影時のブライトの笑顔をかみ締める。<br />
	演技だとわかっていても、あの笑顔だけは自分のものだ。</p>
<p>
	「絶対MV買う～～～!!」<br />
	「&hellip;買わなくてもシフォンが渡してくれると思うけど」<br />
	「何回も見るの!!!」</p>
<p>
	呆れて声も出ないファインを背に、レインは至極ご満悦だ。<br />
	MVの出来あがりが楽しみでしょうがない。</p>
<p>
	「アイドルになって良かった&hellip;!!」</p>
<p>
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	　『恋は砂糖で出来ている』<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>鼎</name>
        </author>
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    <id>rxf.futatsutomoe.com://entry/63</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://rxf.futatsutomoe.com/shirley%20temple/1" />
    <published>2012-02-04T17:12:04+09:00</published> 
    <updated>2012-02-04T17:12:04+09:00</updated> 
    <category term="Shirley Temple" label="Shirley Temple" />
    <title>1</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>
	<br />
	<br />
	「君、かわいいね?」</p>
<p>
	それがすべての始まりだった。</p>
<p>
	&nbsp;</p>
<p>
	<br />
	『今日はほんとうに、みんなありがとぉーーーーーーっ!!』</p>
<p>
	叫んだ声がマイクからスピーカーを通して、一段と大きく、広い会場に響き渡る。<br />
	その声に応えるように、客席からは同様にありがとーとかよかったよ!とか、拍手交じりに歓声がとどろいた。<br />
	それはもう、スピーカーの声に負けないくらい、いや、それ以上に。<br />
	ここはステージの上、それもそれなりに結構な人数の入る結構有名なライブハウスだ。<br />
	その中心にファインはいた。<br />
	すごいなー&hellip;と、どこか他人事のように思ってしまう。<br />
	これだけの人たちが、自分たちを見るためだけに集まってくれたのだ。<br />
	自分たち、そうファインとレインのアイドルユニット『FR』のために。</p>
<p>
	事の起こりは一年ほど前のことである。<br />
	たまたま用事があって出かけた繁華街で、ファインは声をかけられた。<br />
	最初は怪しげな勧誘だと思い無視を決め込んでいたのだが、あまりにもしつこく声をかけ続けられ、よくよく見てみたら案外しっかりとした身なりをしていて、立ち話だけならいいかなという気になる。<br />
	渡された名刺には芸能事務所の社名と名前が書かれていて、次は親御さんもご一緒に、是非電話をくれと念を押された。<br />
	とりあえず話のネタにはなったかなと帰ってきたら、それに食いついてきたのは驚いたことにレインだった。</p>
<p>
	「これ、ブライト様と同じ事務所じゃない!」</p>
<p>
	レインの大好きな、それはもう本当にびっくりするくらい大好きなブライト様とは、今超人気の二人組バンド『J.Moon』のベース担当である。<br />
	どうやら所属事務所までしっかりチェック済みらしい。<br />
	スカウトされたと話したら、いいなーブライト様に会えるかもしれないじゃないと羨ましがられる。<br />
	そんなつもりはまったくないのだがレインの勢いに押されて、しぶしぶ名刺の電話番号に連絡することとなった。<br />
	気が乗らないまま迎えた週末、家まで来てくれると言うスカウトマンを母と迎えたダイニングを、キッチンでは興味津々とばかりにレインが覗いていた。</p>
<p>
	「もしかして&hellip;双子、ですか?」</p>
<p>
	それを見つけた事務所の担当社員だという、連れの目が光った気がした。</p>
<p>
	「いっそのこと、二人でデビューしませんか」</p>
<p>
	にこやかに言われた言葉に開いた口がふさがらなかった。<br />
	もともとファインは、レインが満足する程度話を聞いたら断るつもりだったのだ。<br />
	それなのに。</p>
<p>
	「えぇっ!? いいんですか&hellip;?」</p>
<p>
	やはりというかなんと言うか、レインの目はそれはもう輝きに満ちていた。<br />
	だったらレイン一人でと言ったのだけれど、レインはそれじゃ不安だから嫌だと言うし、事務所の人たちも二人一緒の方がいいと言うしで、なし崩し的に付き合うことになった。<br />
	しかしそれからが早かった。<br />
	すぐにボイストレーニングやらダンスレッスンやらに時間を費やし、半年後には事務所一押しの大型新人としてCDデビューして、それがチャートTOP10入りを果たしてしまった。<br />
	すぐにセカンドシングルの予定も決まり、それがまた大ヒット。<br />
	デビューして一年たった今では、ファーストアルバムを引っさげてワンマンライブツアーを敢行し、今日がその最終日だ。<br />
	いくらなんでも順調すぎるんではないだろうか。<br />
	本当に現実なのだろうかとたまに自分すら疑いたくなる。<br />
	実はドッキリなんじゃないかとか。<br />
	しかし隣を見れば、千秋楽を無事に終えていまだ頬を上気させたままのレインがいた。<br />
	今はライブハウス近くのバーを貸しきっての打ち上げ中である。<br />
	未成年のファインとレインは、ノンアルコールカクテルで気分だけ味わっていた。</p>
<p>
	「どうした?」<br />
	「あの、なんて言ったらいいか&hellip;自分でもびっくりしてて」<br />
	「それだけ頑張ってきたんだ、楽しめばいい」<br />
	「はい」</p>
<p>
	声をかけてくれたのは、レインとは反対となりに座っていたシェイドだった。<br />
	シェイドはJ.Moonのボーカルとギター担当で、事務所の先輩でもあり、いつもなにかと気遣ってくれるいい人だ。</p>
<p>
	「それと前から言おうと思っていたんだけど」<br />
	「はい?」<br />
	「いくら先輩だといっても、同じ事務所なんだ。敬語は使わなくていい」<br />
	「あの、でも&hellip;」</p>
<p>
	ささやく様に、少しだけ近づいていわれた言葉にファインは戸惑う。<br />
	芸能界はそういった上下関係に厳しいと聞いていたのに、この事務所は違うのだろうか。</p>
<p>
	「わかったな?」<br />
	「&hellip;はい」<br />
	「それじゃ敬語だろ」</p>
<p>
	苦笑して言われてしまったが、こればっかりはすぐには直らないだろう。<br />
	ゆっくりでいいからとさらに念を押されてしまった。<br />
	ちょっと困ってレインを見れば、そのレインもちょっと困ったようななんともいえない顔をしていて。<br />
	どうしたのと促せば、思い切ったようにシェイドに向かって口を開いた。</p>
<p>
	「あの、ブライト様はいらっしゃらないんですか&hellip;?」</p>
<p>
	その問いかけにシェイドは曖昧に笑う。</p>
<p>
	「あぁ、まだ曲が出来てないらしくてスタジオにこもってるんだ」<br />
	「そうですか&hellip;お忙しいんですね」</p>
<p>
	明らかに残念そうなレインの横顔に、ファインとシェイドは顔を見合わせて小さくため息をついた。<br />
	シェイドは少しだけ嘘をついていた。<br />
	確かに曲作りは作詞も作曲も時にはアレンジさえブライトがほとんど一人で行っているが、今はそれほど逼迫しているわけではなかった。<br />
	だからこうしてシェイドも打ち上げに参加しているのだが。<br />
	そんな小さな嘘がまだ知り合って間もないファインにも伝わってしまうのは、レインとブライトの関係が明らかに良好とは言いがたいものだからだ。<br />
	レインは、ブライトに会うためにこの世界に飛び込んだと言っても過言ではない。<br />
	だからこそ、ブライトの怒りに触れたのだが。<br />
	しゅんとうなだれるレインを見て、ファインは時間が解決してくれることを願いながらストローをすすった。</p>
<p>
	<br />
	打ち上げもお開きとなり、大人なスタッフたちは二次会だと騒いでいたが、未成年であるファインとレインはタクシーでマネージャーに送ってもらうこととなった。<br />
	アルコールの類はまったく飲んでいないとはいっても、周囲でどんどん消費されていくアルコールや煙草に酔い、それ以前に慣れないライブでの緊張や疲れで、ファインは既に夢の中だ。<br />
	その隣でレインは前に座るマネージャーにばれないように、こっそりため息をついた。<br />
	思い出すのはシェイドの少し困ったような笑顔。<br />
	忙しいなんていうのは言い訳だって、レインもわかっていた。<br />
	ブライトに、嫌われてる。<br />
	原因は自分にあるのだから。</p>
<p>
	「へぇ、君たちが新しく売り出す新人?」</p>
<p>
	まだ事務所に所属することを決めて間もない頃、同じ事務所の先輩方にあいさつ回りをするからとマネージャーに連れられてきたのは、いくつかある会議室のひとつだった。<br />
	レッスンやら打ち合わせやらで忙しい日々の中、スケジュールは聞いても頭に入ってこなくていつも行き当たりばったりで。<br />
	だからその日のそのときも、会議室に誰がいるかなんて入るまでわからなかった。<br />
	そして、そこにいたのは。</p>
<p>
	「本物のブライト様!?」<br />
	「ブライト、様&hellip;ね。 知っていてくれて嬉しいよ」</p>
<p>
	そこにいたのは紛れもなく、憧れのバンド『J.Moon』のシェイドとブライトだった。<br />
	あまりの驚きに、レインはつい叫んでしまう。<br />
	ちょっと苦笑気味ではあるが、笑顔を向けられてそれだけでレインは舞い上がってしまった。<br />
	だって、あのブライトが、すぐ目の前にいるのだ。<br />
	シェイドやほかのスタッフたちもいるのだが、レインにはほとんど見えていなかった。<br />
	担当マネージャーが慌てて止めに入ろうとするが、あー&hellip;という顔で隣のファインが無駄だと目配せする。<br />
	こうなったレインはもう手がつけられないのは長年の経験で承知していた。</p>
<p>
	「知ってるも何も、私、本当に大ファンなんです&hellip;!!」<br />
	「ありがとう」<br />
	「ブライト様に会いたくてこの事務所に入ったくらいで&hellip;もう本当になんて言っていいか&hellip;」<br />
	「へぇ&hellip;?」</p>
<p>
	だからレインは、ブライトの目が少しだけ細められたのには気づけても、その意味までは理解できなかった。<br />
	あぁ、目の前にいるブライトがいろんな表情を見せてくれていると、若干恍惚の表情すら浮かべている。<br />
	そんな舞い上がったレインに向けられたブライトの言葉は、驚くほど辛辣だった。</p>
<p>
	「そんな心構えで始めたなら、今すぐやめたほうがいい」</p>
<p>
	目を見開き、硬直してしまう。<br />
	え、とレインが理解するまもなく、ブライトの言葉は続いた。</p>
<p>
	「もっと真剣に歌いたい奴や俳優としてやっていきたい人はいくらでもいる」</p>
<p>
	君はそんな人たちのチャンスをつぶしているんだ。<br />
	あまりの言い様に、さすがに周囲のスタッフたちにも動揺が走った。<br />
	マネージャーも慌てて、今日は挨拶だけですのでこれで失礼しますといって、レインとファインを逃げるように引きずっていった。</p>
<p>
	「どうした、ブライト&hellip;? らしくないじゃないか」<br />
	「&hellip;別に」</p>
<p>
	横にいたシェイドが声をかけるも、ブライトの表情は硬いままだった。<br />
	そんなことは知る由もないレインは、その後のレッスンに身も入らず、鬱々を日々をすごしていた。<br />
	ひどいことを言われた。<br />
	大好きなブライトに初めて会ったというのに、辛辣な言葉をかけられて終わってしまった。<br />
	今までないくらい、とてつもなく落ち込んだ。<br />
	しかしよく考えれば、言われたことももっともだと思う。<br />
	あんな心意気では真剣に仕事をしているブライトだけでなく、ほかのスタッフにも失礼だ。<br />
	それに気づいてからレインはすごく頑張った。<br />
	もともと歌うことは好きだったし、ダンスもあまり激しいものは苦手ではあるが決して嫌いじゃない。<br />
	そして迎えた今日という日。<br />
	その頑張りが認められたみたいでうれしかった。<br />
	本当はブライトにも認めてもらいたいけれど、きっとそれは無理だろう。<br />
	ごくまれに歌番組とかで共演することはあっても、すぐに目をそらされてしまう。<br />
	ファインやシェイドが心配してくれているのもわかるのだが、こればっかりはしょうがない。<br />
	あの時見たブライトの冷たい目が忘れられない。<br />
	デビューしてからもこっそり行っているJ.Moonのライブや歌番組のTV越しでは、あんなに優しい笑顔を向けてくれるのに。</p>
<p>
	「それでも大好きなんだもん&hellip;」<br />
	<br />
	ポツリとつぶやいた声は、窓ガラス越しに流れる夜景に消えていった。<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right;">
	　『やっぱり君が好き』<br />
	<br />
	<br />
	ずっとやりたかった芸能モノ。<br />
	ラブコメ目指してやっぱり撃沈です&hellip;。<br />
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
]]> 
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            <name>鼎</name>
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    <published>2012-02-04T17:01:52+09:00</published> 
    <updated>2012-02-04T17:01:52+09:00</updated> 
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    <title>Shirley Temple</title>
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      <![CDATA[<br />
芸能パラレル。宝青。<br />
<br />
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<br />
お題配布元　<a href="http://have-a.chew.jp/on_me/">確かに恋だった</a><br id="NINJASELECTIONID" style="clear: both;" />]]> 
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