×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
白で統一された室内は決して華美ではないが清楚に飾られていて、午後の日差しを温かく迎えている。
たぶん、彼女の趣味なのであろう。
所々に置かれた家具や調度品は赤やピンクで、白い部屋にアクセントを加えている。
目の前の茶器もそうだ。
白いカップとソーサーには、濃いピンクで彩が添えられていた。
男の自分に居心地の悪さを感じさせない、そんな不思議な部屋。
だがシェイドは、一刻も早くここを出たいと思う。
目の前の彼女は隣に座る自分の母と会話を楽しんでいるし、彼女の横ではこちらもまたにこやかに侍女に紅茶のお代わりを頼むこの国の王が座っている。
昨日出立するはずだった予定を1日引き延ばして招かれたこの茶会。
この状況がわからないほどシェイドも馬鹿ではない。
その上、この子は優しい子だよ、などと言われてしまえばそれはもう決定的で。
お見合い。
簡単に言えばそういうことだ。
自分の立場上相手を選べるなどとは思ってこなかったが、今は違う。
見つけたのはまだ幼いが、それでも愛しいと、ともに在りたいと思う優しい子。
自分達の立場も一緒で、いつかはそれがたとえ政略的なものであっても、同じような話が来るのではないかと期待していたのも嘘ではない。
それが、こんな。
今目の前にいる彼女は穏やかに微笑んでいて。
彼女の気持ちがわからない。
今目の前で自分に笑顔を向けるのは、自分の想い人ではなくその妹。
プリンセス・レイン。
「それじゃあ私達は仕事があるからもう行くけど…あなた達はゆっくりしてらっしゃいね?」
ムーンマリアが父と侍女達を連れて出ていくと、意識して浮かべていた笑顔を消した。
それに驚いたようなシェイドの反応を無視して紅茶を啜る。
誰かが気を利かせてくれたのか、自分好みに淹れられたそれは綺麗な琥珀色。
ストレートで飲むことを好む1杯目だから、葉の香りが心地よい。
「……」
部屋を包む沈黙が重いと思うのは自分だけではないだろう。
しかし自分は話すことはなにもない。
言いたいことならばいくらでもあるが…彼に話す気がないのなら、この沈黙が続くだけだ。
そう思っていた矢先に彼が口を開く気配がする。
とても、躊躇いがちに。
「君は…」
言いかけて止まり、もう一度何か言おうとしては言葉にならずに口をはくはくさせるだけ。
そんな様子に無理もないと同情する自分と、情けないと罵倒する自分がいる。
言い辛そうにする言葉を先回りして放った言葉は、どちらの自分か、自分でもわからない。
「この話に反対しないのか?」
「…まぁ」
「する理由がないわ」
躊躇うことなく放った言葉に眉をひそめた彼は、ブライトは…と言葉を濁す。
濁すくらいなら最初から名前を出すなと言いたい。
あからさまにため息をつけばばつが悪そうな顔をするも、続きを促してくる。
罵りたくなるのを抑えて答えた声は、自分でも冷たいと思うほど乾いていた。
「片想いよ、私の」
まだ温かい紅茶を口に含んだ。
とろりと舌の上を滑って喉を通る液体がすこしだけ自分を落ち着けてくれる。
落ち着けなければなららいほど心がざわめくのは、昨日の彼の目を知っているから。
熱く見つめるブライトの視線の先は自分ではない。
今更ながらに思い知らされたそれだけれど、目の前の彼は気付いてすらいなかったようで。
それだけ、彼が幸せだったということだろう。
ファインと共に在ることで。
だからこの政略的な話を良しとしていないことは明らかだ。
しかし先の諍いもあって各国同士の友好を深めようとしている父王達の意図は明らかで、宝石の国のブライトも候補に挙がっていたことは知っている。
その中で月の国が選ばれたのは、ムーンマリアが身体的にも精神的にも弱ってきていることが大きい。
シェイドに王位を。
そして隣に並び立つべくして選ばれたのは自分。
「しかし…どうして君なんだ」
昨日一緒に踊った相手はファインなのに。
苦々しく言い放つ言葉に同意を返したりはしない。
そして突きつけるのは。
「あの子はこの国を出ないわ」
さっと顔を曇らせて、厳しい目で促してくる。
なぜ、と。
返す言葉はただの事実。
それから少しだけ織り交ぜた自分の考え。
「一応あの子が長女だし…なによりこの国の太陽だから」
見るものすべてを明るくする、光り輝くおひさまの国のプリンセス。
政には向かないかもしれないが、それでもあの光はいずれこの国すべてを照らす光となるだろう。
明るくて、優しくて、居るだけでその場が和む。
それは自分が一番良く知っている。
最近付き合い始めた目の前のこの男なんかより、ずっと。
大事な姉を取られたことに少しだけ嫉妬した。
それでも笑うファインに免じて自分も笑顔で見守っていたのだが。
この話が出てきてしまった。
ファインをこの国に留め自分が嫁ぐこと、それが国のためであり、自分の選んだ道である。
しかし。
「あなたはどうするの?」
きっとファインが泣く。
それだけは許せない。
だから聞いた、彼の答えを。
「俺は…」
彷徨わせた視線が、彼の迷いを示している。
何に迷うのか知らない。
どんな選択肢があるのか想像するのは容易いが、理解はしてやれない。
自分は何を基準に行動するかもう決めているから、それ以外は譲れない。
彼の迷いになんか、同情してやらない。
「許さない」
叩きつけたテーブルが揺れて、カップがかちゃかちゃと音を立てた。
驚きに瞠った目を睨みつける。
「許さないから、あの子を傷つけるものはすべて」
言いたいことは言い切った。
もうここに用はない。
レインは席を立ち、振り返ることなく部屋を出た。
back next
ちょっと長くなりました…。
レインはファインが1番大事です。
自分よりも、ブライトよりも。
それから、物事に優先順位をつけて考えて行動する人。
反対にファインは全部大事で順番をつけられなくて切り捨てることが出来ない優しい子。
PR