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間抜けだ、どうしようもなく。
それに気付いたのは「shine」を出た次の日だった。
いつものように仕事に出てひたすら働いてくたくたになって帰ってきたその日。
いつものようにアルテッサが出迎えてくれた。
もうすぐ家を出るのだからと惜しむかのようにあと少しだけ、と家に残っている妹の顔を見て思い出す。
「―――持ってくるの忘れた…」
せっかく作った完成品。
妹に渡すはずのそれを、店に置いてきた。
なんと間抜けなんだろう。
怪訝そうに自分を見つめる妹の目から逃れて一直線に自室に向かう。
とりあえずジャケットを脱ぎネクタイを緩めた。
今更もう一度「shine」に行くことは出来ない。
彼女に合わす顔がない、これ以上邪魔になってはいけない。
となると。
「電話、か…」
レインが出ることも可能性としてないわけじゃない。
けれど他に方法は思いつかなかった。
遅くならないうちにと携帯を開いて、店の番号を呼び出す。
わずか3コールで出た相手にどきりと心臓が波打った。
「はい、shineです」
「…シェイド、遅くにすまない」
「ブライト…?」
レインではなった。
ほっとしたのと同時にがっかりする自分を自覚して。
苦く笑うのを抑えられない。
声にまでそれが出ないように気をつけて手短に用件を切り出した。
「あぁ、それなら…ちょっと待ってくれ」
保留音の代わりにそばにいるのか微かにファインの声が聞こえてくる。
確認を取ってくれているのだろう。
レインはいないのだろうか。
聞きたいけれど、聞けない。
いたとしても何を話せばいいのかわからない。
もう一度、ちゃんと謝りたいとは思うが。
「待たせたな。ちゃんと保管してあるから安心しろ」
「あぁ、ありがとう」
問題は、取りに行くタイミングで。
行くだけならこんなに気が重くはないだろう。
店にはレインがいるから。
「アルテッサ嬢のドレスが当日搬入になったのは聞いたか?」
まったく聞いていないので素直に知らないと返す。
昨日の最後の調整で不具合があったらしく、午後の式に間に合うように当日の朝ドレスが式場に届けられることになったらしい。
それと何の関係があるのか。
「一緒に持っていく、適当にラッピングもしておくから」
といってもすぐに取り出して使う羽目になるが、と笑う声に少し心が軽くなった。
寂しいと思うが、これで彼女と顔を合わせなくて済む。
重ねて礼を言って切ろうとすれば、更にシェイドの声が重なった。
「搬入はレインにさせる」
「え?」
「…うまくやれよ」
楽しげに、でもどこか真摯に告げられた言葉に驚いているうちに電話が切られた。
晴れた空。
6月のまだ微かに柔らかさの残る太陽。
まだ昇ったばかりだというのにさんさんと輝く太陽に手をかざす。
建物の中に入って冷を取ることも考えたが、できるだけ早く顔が見たいとここにいる。
今日は妹の結婚式で、レインがドレスやら必要な小物やらを届けてくれるはずだ。
1度会ったことがあるからと出迎えを申し出てアルテッサもその夫となるアウラーも部屋に残してきた。
本当はもっとたくさん、会った回数だけなら彼女達よりも多い。
けれど親密さは、と聞かれたら大して変わらないのかもしれない。
自分の気持ちは違うのだけれど。
会った途端に拒否されるのが怖くて、アルテッサに渡すプレゼントを受け取りたいと言い訳を考えるなんて情けない。
うまくやれと電話越しに聞いたシェイドの声が蘇る。
頑張れ、ではなくて。
その微妙なニュアンスの違いに期待していたりもするのだが。
ぐるぐると思考にはまっているうちに見覚えのある車が近づいてきた。
「…お久しぶりです」
大きな荷物を抱えたレインが降りてきてにこやかに微笑む。
ただそれが仕事用の貼り付けたようなもので心がきしむ。
挨拶を返すことしか出来ない。
「これ…すごく素敵でした」
渡されたのは綺麗にラッピングされた、たぶん自分が作ったウェルカムラビット達。
「ありがとう」
「いえ…仕事ですから」
付け足されたようなその台詞。
わざわざ強調して欲しくない。
自分達はそれだけの関係だと言われた気がして。
それが嫌で認めたくなくて、そのまま建物に入っていこうとする彼女に勇気を振り絞って声をかけた。
「…っ、レイン」
止まる歩み。
けれど振り返ることはなくて。
諦めかけたときだった。
「この引渡しが終わったら…少しだけ、お時間いただけますか?」
「かまわない」
突然の申し出に驚くもすぐに返す。
自分も伝えたいことが、ある。
もう言わずに後悔するのは嫌だった。
「お待たせしました」
ドアを開けたレインに待ってましたとばかりにアルテッサの瞳が輝く。
朝からずっとそわそわしていたのだ、仕方ない。
それをアウラーがにこやかに見守っている。
きっといい家庭を築いてくれる、2人で。
ふとそう思って余裕のないはずの自分が微かに笑えたことを自覚した。
幸せになって欲しい。
心からそう思った。
「ねぇ、ウェルカムラビットがないんだけど…」
女性陣2人で受け渡しの確認をしていたのだが、アルテッサが怪訝そうに顔を上げた。
「申し訳ありません、こちらではご用意してないんです」
「どういうこと!?」
いきなりのことに唖然として怒ることも忘れたらしい。
いつもなら止める隙もなくまくしたてる口がぱくぱくと力なく動いている。
最近妹の新しい顔を見ることが多くて、驚かせるはずの自分が驚いてしまう。
あまりそのままにしておくのも可哀想で、あーとかうーとか言葉にならない言葉を発して今だ立ち直る気配のない妹に、ラッピングされたプレゼントを差し出した。
「代わりに僕が用意させてもらった」
「お兄様…?」
やはり怪訝な顔のままアルテッサの手にそれを乗せ、開けてみろと促す。
そろそろと慎重な手つきでリボンが解かれ、徐々にそれが姿を現した。
アルテッサの瞳が驚きに見開かれる。
「…これって、」
その手に握られたのは2体のぬいぐるみ。
淡いベージュのふわふわのファーの体。
ビーズで出来たクラウンをのせ真っ白なベールをかぶっている。
首には青いリボンのチョーカー。
そして纏うのは真っ白なウェディングドレス。
アルテッサとおそろいの。
「私と、同じ…」
じっと見つめてくる瞳を見つめ返しておめでとうの言葉をのせる。
照れくさいけれど、まだ伝えていなかったから。
「ちゃんとお祝いしてなかったから」
喜んでくれる?と窺えば、その瞳が潤みだして。
え、と思った瞬間には抱きつかれた。
「ぁりが、とぅっ…!!」
嗚咽混じりに言われた言葉に、あぁ良かったと今までの苦労が報われた気がした。
本当は良く思っていないんじゃないかとか祝いの言葉すらもらえないんじゃとか思っていたと泣かれて謝ることしか出来ない。
こんなにおおっぴらに泣く姿も初めてで。
どうしようかとおろおろしてアウラーに目線で助けを求めると、最後ですからと微笑まれてしまった。
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