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引き止めることも出来ずにその背中を見送った。
言いたかったのはそんな言葉じゃなくて。
伝えたかったのはそんな気持ちじゃなくて。
誤解だと叫んでももう遅い。
彼とのつながりは途絶えてしまった。
泣いて縋ってこの気持ちをぶちまければ、こんな別れをしなくてすんだだろうか。
あんまり泣くと目が腫れるとなんとかアルテッサを宥めすかして部屋を出た。
アウラーがついてるから大丈夫だと思う。
というか、大丈夫でないと困る。
これから共に歩んでいく2人だから。
「ありがとう、君のおかげだ」
送るといって一緒に歩いてきたレインに向き直る。
感謝の言葉を尽くしても足りないくらい、アルテッサを喜ばせることが出来た。
すべて彼女のおかげだ。
「いえ、私達はお手伝いしただけですから」
「それでも、ありがとう」
重ねて言えば笑ってくれる。
さっきと違い、仕事用ではないその笑顔が嬉しかった。
つられて微笑むと少し緊張が緩んだ気がする。
この後彼女から時間をくれと言われた。
自分も伝えたいことがあったけれど…もしかしたら言わずに別れたほうがいいのかもしれなくて。
その内容が気になって仕方なかったけれど、焦って急かすようなことはしたくない。
「さっきみたいに、喜んでもらえるようにするのが私達の仕事なんです」
はにかみながら笑う顔は、どこか誇りを含んでいるように見える。
つい最近、こんなことがなかったら興味を持つこともなかっただろう彼女の仕事は、ちょっと関わっただけの自分でもとても大変だということがわかる。
女性がたった1度の晴れ舞台のためだけに着るウェディングドレス。
それを依頼主と何度も打ち合わせて細部にまでこだわり注文通り作る。
大変で、だからこそ得られる喜びも大きいだろうこの仕事。
いつだったか「お客さんの笑顔のために一針一針縫うんだ」と聞いたことがある。
さっき自分もささやかながらなんともいえないくすぐったい気持ちを覚えた。
確かにこれは随分な感動だ。
プレッシャーと期待の重圧に耐えて続ける彼女を心底尊敬する。
「なのに…この間は怒鳴ったりしてごめんなさい」
突然下げられた頭に慌てて顔を上げて欲しいと声をかける。
あれは自分が悪かった、彼女が謝る必要なんてない。
「いやあれは僕が悪かった、だから…」
「お仕事をお任せしていた以上、私が怒鳴ったのはおかしいです」
「でも…」
凛とした彼女の瞳にそれ以上何も言えなくなる。
仕事にはちゃんとけじめをつけるのはいいことだけれど、あのときの自分は正式なアルバイトではなかったことは自覚している。
かといってそれ以上なにかを言うことも躊躇われて。
迷って視線を彷徨わせると、彼女の目も自分から離れたのがわかった。
「本当に…我侭だったんです、私の」
「…わがまま?」
理知的なイメージを持たせるレインの口から出てきた言葉とは思えない。
彼女の口からそんな言葉が出てくるのが不思議でつい聞き返してしまった。
一瞬の躊躇いを見せた後、意を決したように口を開く。
なぜか僅かに緊張しながらその言葉を待った。
「あなたとは仕事だけの付き合いをしたくなかったから、だから」
「それって…」
期待して急かす心を押さえつけてなんとかその先の言葉を待つ。
ただ見つめるのは、揺れるレインの青い瞳。
「…あなたが、好き、です」
微かに、でもはっきりと聞こえた。
言い切ってすぐに俯いてしまったけれど。
その青い髪を見つめながら、言われた言葉を心の中で繰り返した。
彼女も、自分と同じ気持ちでいてくれた。
「最後にあんなひどいことしたから受け入れてもらえないのはわかってます!だけど…っ」
泣きそうになるのを必死で抑えているのがわかるその声。
自分が何も言わないのを拒否と取ったのだろうか、ならば急いで訂正しないと。
そう思うのだけど、どこかくすぐったい今の状況。
レインが自分を好きだと必死に伝えてくれることが嬉しくて。
そんな状態をもう少しだけ味わっていたくて、応える前につい問いを重ねてしまう。
「だから、君たちの仕事をしてた僕を怒鳴った?」
柔らかそうな髪に触れ、そっと撫でながら問う。
触れた髪はやはり柔らかくて。
一瞬身を引こうとしたレインを髪を梳きながらひきとめた。
「仕事、任せてしまったら…本当にただのバイトと雇い主になっちゃいそうで…」
正式なアルバイトとしてはやはり見てもらえていなかったらしい。
裁縫なんか中学で習った以来の自分の腕にその認識は悔しいが事実だ。
だが、それが今は嬉しい認識となった。
彼女も自分と仕事だけの関係で終わらせたくなかった、だから怒鳴って彼女の仕事をやめさせた。
あの時はただ後悔と罪悪感でいっぱいだったけれど、今は違う。
彼女の気持ちを知ったから。
自分も、伝える勇気をもらった。
「じゃぁ今は?」
訝しげに彼女が見上げてくる。
「今も僕達はバイトと雇い主?」
アルテッサへのプレゼントが出来た今、それはもうないだろう。
もとよりアルテッサのドレスですら引渡しがすんだのだから、客と店員ですらないだろう。
たぶん今の自分たちは…あかの他人。
それを思ったのか、真意がつかめないのか、レインの顔が僅かに歪む。
潤んだ瞳からは涙が零れ落ちそうだ。
「…ブライト様?」
レインが自分を呼ぶとき。
バイトとしてそして客としての意識が強いせいか、必ず名前に『様』がつく。
やめてくれと頼めばファインもシェイドもすぐになくなった。
だがなぜかレインだけはそのままでずっともどかしかった。
「ブライト、と呼んでほしい」
「え?」
「僕も…君が好きだよ」
さすがにこの言葉を言うのは気恥ずかしい。
照れ隠しにと顔を近づけて唇で彼女の涙を拭った。
離れてから見たレインはいまだ呆然としていて。
「…うそ」
「嘘じゃない」
「でも…」
戸惑うレインに本当だと笑いかける。
そっと抱き寄せてもう一度耳元にささやきかけた。
殊更ゆっくり、思いのたけを込めて。
「レインが、好きだよ」
やっと信じたのかそっと縋りついてくるいくぶんちいさな背中。
小さく聞こえる嗚咽にそっとその背を撫ぜた。
いつの間にとかなんで黙ってたんだとか。
とにかく文句を言うのは素直じゃない妹の照れ隠しだと知っている。
結婚式の写真を持って改めてお礼をしに行くというアルテッサに引きずられる形で「shine」に向かった。
あれからまだレインには会ってない。
忙しいとか都合が合わないとか何かと理由はあったけれど、1番の理由は照れくさかったから、だろう。
だからこの妹の誘いはありがたかった。
どう連絡しようか考えあぐねて間があいてしまったから、無理にでも会う理由を作ってくれたアルテッサに感謝していた…のだが。
「レインにもお礼言いたかったんだけど…」
ぽつりと残念そうにつぶやかれる妹の声に泣きたくなった。
出迎えてくれたのはファインとシェイド。
今日はレインだけが打ち合わせに出向いているらしくここにはいない。
来れば会えると思っていただけにかなり落胆した。
「それじゃそろそろおいとましようか」
会えなかったことを嘆いても仕方ない。
本当なら帰ってくるまで待ちたいところだが、この状況でそんな図々しいことを頼めるわけもなく。
車にエンジンかけてくるよと先に部屋を出た。
「あーぁ…」
玄関を出た途端にドアに背をつけてへたり込む。
情けないことこの上ないが、それでも一気に脱力してしまうのは止められなかった。
事情を知らない彼らの前ではこんな姿は見せられないからそれなりに気を張っていたがそれももう必要ない。
思いっきり、腹のそこから息を吐いて大きくため息をついた。
会いたかったのに。
2人っきりで話すことは出来なくてもせめてみんなと混ざって話したかった。
間が空いて連絡しづらかったなんて言い訳ばかりしていた自分に後悔する。
あれからたぶん2週間もたっていないと思う。
たかが2週間、されど2週間。
とにかくもう会いたいとしか考えられなかった。
「どうしたの?」
だからその声が頭上から降ってきたときは幻聴かと思った。
慌てて顔を上げれば不思議そうに見つめるレインがいて。
青に飾られたその面影がやたらと懐かしいのに新鮮だ。
きょとんと見つめてくる瞳に愛しさを覚える。
レインだ。
そう思ったら勝手に体が動いていた。
「…っ、会いたかった!」
立ち上がって思いっきり抱きしめる。
いきなりのことに驚いてもがく彼女も放す気がないと悟ったのかしばらくするとおとなしくなって。
何かあったのかとそっと窺ってくる。
「ブライト?」
初めて、呼んでくれた。
離れて勝手に不安になって。
けれどその一言でたちまち吹き飛んでしまうから現金なものだ。
やっとのことで放して笑いかければ、ただいまと笑って返してくれる。
たぶんまた不安になったりすることはあるだろうけれど。
やっと呼んでくれた自分の名前。
レインが呼んでくれるたびにきっとその不安は解けていく。
まだまだ始まったばかりの自分たちだけれど。
自分勝手な確信だけど。
きっと君を幸せにする。
だからいつか。
僕のために君自身のドレスを作って。
そのときは、今度こそ、僕も手伝うから。
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なんでこんなにブライト様が恥ずかしいんだろう…?
最初に考えてた頃はもっと凛々しかったような気がするのに。
短く楽しくラブラブに!をモットーに書いていたんですが
完結までに1ヶ月もかかってしまった(予定では2週間ぐらいで終わらせるつもりでした…)。
まあでもこんなこともあるさ、うん。
かなり乙女でお約束的な話ですが、自分基本が少女漫画なんでほっといてあげてください…。
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