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「プーモ、一緒に来て!」
「わっ! いきなりなんでプモか!?」
クッキーやらマカロンやらの入ったバスケットを下げてよたよたと飛んできて、やっと部屋に着いたと思ったらいきなりそのドアが開いてレインが飛び出してきた。
驚いて落しそうになったバスケットをなんとか抱えて態勢を立て直すも、目に入ったレインの顔にただごとではないと悟る。
「ファインが…!」
部屋にはファインがいたはずなのだが、と思考をめぐらせれば出てきたのはその名前。
後ろから出てきたブライトが補足する。
しかしその彼も困惑気味に口を開くと、縋るようにプーモを見つめた。
「シェイドが連れて出て行ったんだ」
廊下を、この部屋を目指して飛んできたのだから、誰かが出て行ったのならすぐにわかる。
それなのに部屋から出て行ったと言う。
しかし覗き込んだ扉の先にはファインはおらず。
開いた窓のカーテンが何事もなかったように風に揺れている。
抱えなおしたはずのバスケットを、今度こそ取り落とした。
「待って!」
乗り出した窓の外に人影はなくて。
けれど、それでも追いかけなければとプーモが飛び出す。
早く、傍に行かなければ。
急いで、ファインの元に。
しかしそれをレインの声が引きとめた。
「何ででプモか!?」
急ブレーキをかけて抗議する。
急がなければいけないのに、早く行かなければならないのはレインもわかっているはずなのに。
引き止めたレインに食いつかんばかりの勢いで振り返り…絶句した。
レインのその顔が、あまりに必死だったから。
「・・・レインさま?」
「私と一緒に来て」
怖いほどの真剣さでもってプーモを見つめてくるその目を見て思い出した。
ファインを思っているのは自分だけではない。
きっとレインが、一番心配している。
「わかったでプモ」
なぜ、このとき疑問に思わなかったのだろう。
自分が窓から先に追うほうが断然早いはずなのに。
揺れる青い髪を追いかける。
さっきは目の前の彼女を探して城の中へと進んでいった。
レインに会ってその真意を確かめたかった。
しかし今は逆にその彼女を追いかけて入った城を後にする。
焦りを含むその横顔の理由はわからない。
けれど、とにかく急がねばならないらしいことは伝わってくる。
理由も聞くことも許されず、ファインの訃報にしかし実際は生きてあの部屋にいたことの意味も知らされない。
もどかしく思う気持ちはあった。
知らされないことはとても辛くて寂しくて。
だが、ファインが生きていてくれたことにほっとした。
あの部屋に入っていたって元気な姿を見せたファインに湧き上がる疑問はあっても、安心が先にたって動けなかった。
だがシェイドは違ったらしい。
ファインが監禁されているのかと疑ったシェイドにすぐさま否定できなかったのは自分の落ち度以外の何者でもないが、施錠もせずに監禁する輩がどこにいるというのだろうか。
あの時ドアに鍵はかかっていなかった。
そして、このレインの取乱し様。
これだけ慌てれば逆に本当に監禁していたのではと今のシェイドなら確信しそうだが、彼女のさっきのセリフはあまりに必死だった。
『ファインは私から離れちゃダメなの!!』
この言葉がどれだけの意味を持つのかわからない。
しかし今はその言葉と行動を信じるより他ないだろう。
その彼女はといえば、急ぎ足を動かしながらも時折プーモとなにやら囁き交わしている。
数歩遅れて従うブライトには何をしゃべっているのかはっきりとは聞こえないが、それでも互いの真剣な表情だけは窺えて口を挟むことなく後を追った。
「……様は…」
「…じょうぶ、わかるわ」
たぶんシェイドの行き先のことだろうと見当をつける。
足取りはしっかりとしていて迷いがない。
彼のことだから月の国へ向かう飛行船に乗って自国に連れて行くのではないかという予想は立つが、果たしてそこまで断言していいのだろうか。
もしかしたら別の場所に向かっているかもしれないのに。
しかしそんな杞憂はすぐに散った。
少しだけ先に立つプーモが声を上げてその存在を知らせてくる、ファインがいた、と。
「ファイン!!」
城から少し離れたその場所、閑散としたそこにファインはいた。
近づくほどにはっきりとするその姿。
跪いて呼びかけるシェイドに返る声はなく、白い四肢を投げ出してぐったりと細く息をしているファイン。
その顔はさっき棺の中に見た作り物のそれよりもさらに青白く、ひと目でただ事ではないとわかる。
伏せた目が時折揺れて寄せられた眉が苦しげなその表情を一層際立たせる。
「ファインが…」
「黙ってるでプモ!」
気付いて呆然とつぶやくシェイドに、激しいプーモの声が飛ぶ。
その勢いに押されたのか何か言いたげにそれでも黙り込んだ彼を気にすることなく、レインがその場に跪いた。
警戒するシェイドには目もくれずその腕の中のファインに手をのばす。
「ファイン…」
震えるその声。
同じように震える指でファインの頬を包んで何度も呼びかける。
「ファイン、起きて?」
何度も何度もその頬をなぞり、手を取り握り締めて呼びかける。
時には額同士を合わせて2人の隙間を埋めるかのように身を寄せる。
まるで、熱を分け与えるかのように。
「医者は?」
「必要ないでプモ」
「しかし…」
言い募ろうと向けた視線の先にはプーモの厳しい顔があって、反論するのは憚られた。
こんな状態のファインを放っておくことは出来ないのにレインもプーモも医者は要らないという。
これは、どういうことだろうか。
しかしそんな不安をよそに当のファインの顔色はみるみるうちに回復し、青白かった頬は薔薇色を取り戻す。
驚きを隠しきれずに固まるシェイドとブライト。
更に信じられないことに、その腕の中のファインの睫毛がぴくりと揺れた。
「ん……」
「ファイン…!」
「ぁ…れ、いん?」
ゆっくりと開いた瞳がすぐにレインを映して笑う。
それに安堵したかのようにレインもふわりと微笑んだ。
今日初めて見る彼女の笑顔に無頼ともやっと自分も安堵したのを感じる。
信じてはいたけど、それでも不安はあったから。
「大丈夫?」
「もうちょっとだけ…」
そう言ってシェイドの腕からレインのそれへと縋るファイン。
レインが慣れた仕草で抱きとめるとすぐに互いの背中に手が回されて。
擦り寄るように合わさった頬が熱を分け合って。
そこが離れると今度は額を合わせて見つめ合う2人。
「もう大丈夫!」
いつもの全開の笑顔で宣言したファインが、名残惜しげにレインから離れた。
といっても手は繋いだままだが。
「心配させて、ごめんね?」
困ったように寄せられた眉。
けれどいつも通りの元気なファイン。
さっきまでぐったりとしていたその様子からは想像も出来ないようなこの回復ぶりには唖然とするしかなくて。
問いただすことも忘れて、ただ、2人を見つめた。
「…どういうことだ?」
「…ここを離れなきゃ」
「答えろ」
途端鋭くなった空気にファインが戸惑うも、逸らされたレインの視線がプーモを捕らえる。
「ファインはもう大丈夫だから、先に帰ってお父様に知らせてくれる?」
シェイドを気にしながらもプーモは頷いて飛び去っていく。
残ったところでシェイドに力押しで出られてはいなくても同じだろう。
それに今の2人を見れば監禁していたなどという誤解も解けているはずだ。
話を聞く気はあるようだし。
「とにかく別の場所へ。今ファインを見られるわけにはいかないの」
「お願いシェイド!」
今は誰も居ないこの場所でもいつ誰が来るかもわからず、ファイン自身が見つかることを恐れている。
それを理解したシェイドが移動することを了承することで、この冷たかった空気がやっと霧散したとブライトは感じた。
聞きたいことは沢山あるが、とにかく落ち着ける場所へ。
自らのケープを脱いでファインに被せて寄り添うレインが先にたち、人気のない通りを選びながら歩き出す。
何も言わずに従うシェイドにブライトが並んだ。
「…どう思う?」
「なにが」
とぼけて返すブライトに厳しい視線が刺さる。
考えることはいいことだけれど、どうもこの友人は考えすぎて性急に答えを出したがるきらいがあると苦笑した。
それが彼のいいところでもあり、ときにはこんな風に裏目にでたりもするのだが。
「彼女達に直接聞けばいい、もうきっと逃げたりしないさ」
たとえ逃げようとしてもそんなことは許さない。
一瞬だけ見えたその剣呑な光にシェイドは今度こそ口を噤む。
「もっと肩の力抜いて構えてればいい」
気を張りすぎても疲れるだけで、なんらいい結果は得られない。
これがこの前学んだことのひとつであり今の彼にいえる一番の言葉だと思う。
やっと、笑って言えるようになった自分を少しだけ誇らしく思う。
「あぁ…」
同じように微かに笑ったシェイドの視線の先には前を歩く2人の姿があって。
その寄り添いあう姿に漸く安堵のため息を漏らした。
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シェイドが果てし無く勘違い野郎ですいませ…。
でも彼にはこれからもたくさん悩んで迷って頑張ってもらいます(をい)。
対照的にブライトがなんだか出来た人になってて自分でも驚き。
ここまですんばらしく冷静で落ち着いた人にするつもりはなかったんだが…。
あ、今更ですが、ファイン殺してすいませ…(ホント今更)。
開始当初はファインスキーさんの反応が恐ろしくて言えなかったんだ。
死んでないですよー生きてますよー!
だって我が家のレインはファインなしに幸せにはなれないから!!
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