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次の新曲について打ち合わせをするからと、放課後レインはマネージャーに呼び出された。
それはもちろんファインも一緒である。
いろいろ融通が利くからと転校させられた学校にもだいぶ慣れ、クラスメートにバイバイと挨拶してから向かった校門には、マネージやーの車以外にも別の子を迎えに来たであろう車が何台か止まっていた。

「さ、早く乗って」

マネージャーであるシフォンの顔は、心なしかいつもよりにこやかだった。
運転する手つきも、どこかうきうきとしているように見える。

「何かいいことあったの?」
「んー、ヒミツ」
「えぇー?」

ファインとレインは不満げな声を出しながら顔を見合わせた。
しかし、シフォンのそんな様子の理由もすぐにわかることになる。

「えぇ!? ブライト様が作った曲をあたしたちが歌うの!?」
「本当ですか!?」

事務所の会議室で何人かのスタッフとともに知らされたそれに、レインの目が文字通り輝いた。
ブライトが他のアーティストにあまり進んでは曲提供をしないということは、筋金入りのファンであるレインはもちろん知っていた。
まったくしないわけではないが、自分が曲を作るのはシェイドに歌わせるためだと雑誌の対談で語っていたのはファンの間では有名な話だ。
そんなブライトが、自分たちのために曲を書いてくれたのだ、嬉しくないわけがない。

「あたし、頑張ります!!」
「う、うん。あたしも頑張るよ…」

勢い込んで言ったレインにファインは若干押され気味に相槌を打つが、レインの目はここにはいないブライトを映しているようで、まったく気にかけていない。
シフォンはシフォンで、話題のアイドルが超人気バンドJ.Moonに楽曲提供されれば、これで次も大ヒット間違いなしとほくそ笑んでいた。

「二人ともその意気よ!! さっそくこれからのスケジュールの確認に移るわね」

それからのレインは今まで以上に頑張った。
放課後は毎日新曲のダンスレッスンとボイストレーニングに励む日々。
ほとんど休みもなく、家に帰ればすぐに寝てしい、起きたらまた学校ないしレッスンへ直行という生活だった。
それでもレインが頑張れたのは、ブライトに言われた言葉。
あれは間接的にではあるが『真剣にやれ』という意味だったとレインは理解している。
更にもうひとつ、頑張る理由があった。

「ブライト様とMVで共演できるなんて…!」

この新曲で、ブライトとシェイドの二人がミュージックビデオへ出演することが決まっていた。
そもそもが同じ事務所ということもあり、トップアーティストであるブライトに作曲とミュージックビデオへの出演をさせて更なる話題性を作るというのが、事務所の偉い人たちの思惑であろうことはレインも十分承知している。
そんなに長時間の出演ではない、むしろほんの少しの時間の共演になるらしい。
それでも今まではTV越しだったり、音楽番組での少しも話す事も出来ないような共演とは違い、ちょっとだけでもしっかり自分を見てもらえる。
今更認めてもらえるとは思っていないが、少しだけでも会えるということが単純に嬉しかった。
ダンスレッスンもいつになく気合が入る。
歌う曲は女の子の片思いを歌った甘酸っぱいバラードで、こっそり自分を重ねていたりする。
ただのファンだった頃は、単純にブライトもそのブライトが作った曲も大好きだった。
しかしこの仕事を始めた今では、彼の凄さが今まで以上に理解できた。
もっとブライトのことを知りたい。
もっと、もっと、大好きになれる。
そしてついに今日、そのミュージックビデオの撮影がある。

「J.Moonのお二人がはいりまーす!」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」

スタッフの声につられてそちらを見れば、撮影用の衣装に着替えたブライトとシェイドの二人が入ってくるところだった。
それを見つけて、シフォンが駆け寄ってくる。

「さぁ二人とも行くわよ!」
「ほぇ?」
「ほぇ~じゃない! 挨拶も兼ねて打ち合わせよ!!」
「あ、そっか」
「行こう、レイン!」

大好きではあるけれど、やはり前のことがあって踏み出せないレインを、ファインが手を引き近づいていく。
それに先に気づいたシェイドがファインに声をかけた。

「今日はよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「あぁ…」

敬語じゃなくていいって言ったろ苦笑するシェイドと、あぁ!と微笑むファイン。
MVでの相手役だし思い切って自分もブライトに声をかけようと、レインはファインの影で深呼吸した。
胸の前で握った両手に、きゅっと力が入る。

「あの…今日は、よろしくお願いします…!」
「あぁ、よろしく…」

なんとか声をかけたものの、一言発するとすぐに打ち合わせへと背を向けてしまうブライト。
悲しいと思いつつも、やっぱりカッコイイ…とうっとりしてしまう。
とりあえずちゃんと挨拶は出来たし、今のところは及第点ではないだろうか。
とにかく今は、そばにいられるだけで嬉しかった。
そうこうしている内に打ち合わせも順調に終わり、残すはJ.Moonとの共演部分のみとなった。
MVの前半部分は主にファインとレインのダンスシーンや、今までに個々でロケをした映像をこれから編集することになっている。
今から撮影するのはPVの後半部分で、J.Moonが出るのは更に後半も終わりかけの頃だ。
歌も終わりサビの部分をアレンジした音楽だけが流れる中で、ファインとレイン演じる片思いの女の子がまるで報われるかのように、最後シェイドとブライトが手を差し伸べる、という作りになっている。
実は当日までどちらがどちらの相手役を務めるかまでは決まっていなかったが、さっきの打ち合わせでシェイドがファインの相手役を立候補していた。
どうやら二人の間で打ち合わせていたらしく、ファインが笑顔でこっちを見ていた。
ブライトには申し訳ないが、くらくらと眩暈がしてしまいそうなほどレインは嬉しかった。
そしてついに。

「ブライトさん、お願いしまーす」
「はい」

先に撮影を終えたファインが、入れ替わりに入っていくレインに口の形だけで頑張れと応援してくれた。
その横にいるシェイドも少し心配そうにはながらも、笑顔で見送ってくれる。
あんな風にブライト様とも仲良く出来たらいいのにとレインは思う。
けれどすぐに気を取り直した。
今はお仕事なんだから、ブライトの共演者として頑張らなくては。

「よろしくお願いします!」
「あぁ…」

改めて挨拶するも、やはり冷たくあしらわれてしまう。
けれどこれからカメラの前では、笑顔を向けてくれることが決まっているのだ。
ドキドキが止まらない。

「それじゃ、シーン32入りまーす」

これは演技だ。
レインは自分に言い聞かせた。
歌の中の片思いの女の子、目の前に大好きな人がいる。
うつむき加減の自分、不安でたまらない自分。
けれど、その視界に差し伸べられた手が見えた。
彼のやさしい手が。

「…っ!」

不安と、少しの期待で見上げた彼の顔は、優しい笑顔に満ちていた。
すごく嬉しくてうれしくて。
だから、自分もその手を握ろうと。
差し伸べられたその手を…。

「カーット!! ブライト、どうした?」
「…すみません」

突然割って入ってきた声に、レインははっと体をこわばらせた。
何がいけなかったのだろうと思ったのだが、どうやらブライトに非があるらしい。
しかもブライトも自覚している。
自分にはまったくわからなかった。
なにが、いけなかったのだろうか。

「…もう一回お願いします」

 


「はぅーーー…かっこよかったよぅ……」
「…はいはい」

その後撮影は無事終了し、着替えのためにレインは控え室へと戻った。
どうだった?と声をかけてくるファインの声を振り切って、ソファに置かれたクッションめがけてダイブして撮影時のブライトの笑顔をかみ締める。
演技だとわかっていても、あの笑顔だけは自分のものだ。

「絶対MV買う~~~!!」
「…買わなくてもシフォンが渡してくれると思うけど」
「何回も見るの!!!」

呆れて声も出ないファインを背に、レインは至極ご満悦だ。
MVの出来あがりが楽しみでしょうがない。

「アイドルになって良かった…!!」






 

 『恋は砂糖で出来ている』
 


 

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