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ずっとずっと、大好きな人。
四月一日。
自分にとって少しだけ特別な日、といっても今日この日だけではなくこれから毎月の初めの日である一日はいつもより特別な日になる。
だから晴れて良かったと本気で思う。
空は青くて明るくて風は優しく頬を撫でるし、街路樹の隙間からこぼれる太陽の光がキラキラしてる。
まるで全部が歓迎してくれてるみたいだ。
自分をではない。
大好きな妹のレインを。
綺麗で可愛くて優しくてちょっとお茶目な自慢の妹は、きっと若い女の子なら知らない人がいないってくらいに有名である。
幼い頃からCMに出演しモデル活動を経て、その後は有名雑誌の専属モデルの地位を得た。
そんな女の子なら誰だって憧れるような経歴の持ち主、それが妹のレインだ。
子役や子供服なんかのモデルには双子が重宝されるからと以前は自分も一緒にやらされていたのだけど、じっとしてられなくて飽きっぽい自分は成長するにつれてだんだんそんな仕事から離れていった。
一方のレインは服やメイクやキラキラしたアクセサリーとか、そんな可愛いものが大好きで。
だからそのまま仕事を続けていった結果が今である。
「やっぱ綺麗だよねー」
「うん、あの服とかすっごい可愛いし!!」
すれ違う誰もが見上げるこの場所。
駅を出てすぐ、最も人通りの多い通りのビルに掲げられた大きな看板のこの広告。
そこに、レインがいる。
今年の春から「drop.」というブランドの専属契約を交わして、一年はそれにかかりっきりになる。
コレクションのステージや雑誌の撮影、他にもたくさん細かな仕事や制約もあるらしい。
どんどん有名になって誇りで嬉しくなる反面、忙しくてかまってくれなくて寂しい、遠くなるようで切ない。
わがままなのはわかっているけれど。
だからせめて、こうやってレインを見守るのだ。
「わぁ……」
ここらへんで一番大きくて一番目立つ広告にレインがいる。
瞼を閉じて、少しだけなびいた髪に縁どられた白い肌が浮かんでいて。
白くてシンプルなワンピースはレインの美しさを際立たせるようにその肌と青い髪に馴染んでいる。
本当はその逆なのだろうけど。
綺麗で可愛い。
優しい、のはみんな知らない。
自分だけが知っている。
そう思うとなんだかレインを独り占めしているみたいでちょっとだけ嬉しい。
ふふと笑って、もう一度その広告を見上げたとき。
「彼女、好きなの?」
「…え?」
「だからあの彼女、レインだよ」
振り返ればそこには、なんだかやたらとにこにこ笑うおじさん…まで言ったら失礼か、でもお兄さんというにはちょっとふけ過ぎている男の人。
黒いTシャツはにジーパンというラフな格好なわりにどことなくきちんとしている印象を与えるのが不思議だ。
怪しいことこの上ないが、レインが好きなのは事実だからとりあえず頷いておいた。
「彼女と会える、って言ったらどうする?」
「…はぁ?」
今度こそ怪しい。
誰の目があるかわからないからといって家を出て一人暮らしをしているレインだけど、忙しそうにしている割にはしょっちゅう帰ってくる。
嬉しいから文句なんか言わないけれど。
で、昨日も帰ってきて一緒の部屋で一緒に寝た。
今朝は仕事だからと早くに出て行ったのだ、きっと今仕事中だろうから会えるわけない。
そもそも突然こんな人に言われても信じられないし、自分は会おうと思えばいつでも会えるわけだし。
無視して行こうと思ったら、またもや引き止められた。
随分しつこい。
「信じてよ、ほんとに会わせてあげるからさ」
「…じゃ今ここに連れてきてください」
「わかった! ちょっと待ってて!!」
出来るわけない、そう思って言ったのに。
その人は笑顔で走って行った。
それがあまりに嬉しそうで、このまま帰ろうかとも思ったのだけれど、なんだか気が引けて。
ちょっとだけなら、と思い待つことにした…のだけれど。
その人はすぐ見える場所に停めてあった黒いワゴン車に首を突っ込んでなにやら話している。
…逃げたほうがいいのだろうか。
「こっち!!」
しばし悩むと、振り返ったその人が大きく手を振って来てと示す。
車に引きずり込まれたらやだなぁ、としばし迷う。
その間にも彼は来いと示すし。
その後ろで車の窓が開いた。
あの青い髪。
眼鏡越しに見える青い瞳。
見間違えるわけない、あれは。
「……っ!」
こちらを見とめた視線と目が合った。
それを自覚する前に駆け出していた。
気だるげにこちらを向いたその眼が、目が合った瞬間に驚きに見開かれ、その後ゆっくりと笑いに崩れる。
そんな一連の変化はなかなか見られないから嬉しい。
「どうしてここにいるの!?」
「とりあえず乗って?」
説明するからと言われるがままに乗りこむと途端に車は移動を始め驚いた。
レインがいるんだったら安心とそのまま揺られたのだけど。
「………なんでこんなことになってんの?」
真っ白なスクリーンにも似た背景紙を背にしてふわりとレインが笑った。
長い髪は後ろでひとつに高く結い上げて、真っ白なうなじがのぞいている。
そのまま背中のラインを強調するように大きく開いたオフホワイトのノースリーブと、そこからのぞく青いキャミソールがどことなくリゾートっぽい。
視線を下げると濃い色の七分丈のジーパンとその更に下には白のサンダル。
指先に光るペディキュアは青いラメのグラデーションで、そういえば昨日の夜、レインが一生懸命塗っていた。
そして自分の指も。
色違いにピンクのラメでグラデーションのペディキュアは、同じく昨夜レインが塗ってくれた。
履いているのはオレンジ色の綺麗なストーンに飾られたサンダルで、いつもより少しだけ高いヒールで一歩踏み出すたびに淡いピンクのワンピースがふわりと揺れる。
どちらも、自分のものではない。
レインが専属契約を交わしたというブランドの服らしい。
「可愛いよ?」
「…ありがと」
囁き交わす声が小さいのは距離が近いからで。
距離が近いということはレインのすぐ傍にいるからで。
それは背景紙とカメラの間。
どういうことか、自分も被写体となっていた。
「仕事の邪魔じゃない?」
「全然」
それどころか上機嫌とでも言いたげに笑って、そのまま極上の笑顔をカメラに向けた。
途端に切られるシャッターの音。
あ、なんか懐かしいかも。
考えてみれば以前はこんな風に自分もお仕事をしていたのだけれど、一緒に被写体となることは少なかった。
ふたごだから同じ顔で代えがきくと重宝はされたのだけれど。
同じ空間のいるのに一緒にいられなくてつまらない、というのも自分がやめた理由のひとつだったような気もする。
しかし何の因果か、今は一緒にカメラに写っている。
それが単純に嬉しい。
流し聞いた説明でははっきりと顔は出さないらしいし、写っても後姿とか肩だけとかになるようだ。
一緒に写れないことはちょっと残念だけれど、とりあえず今は楽しもう。
そう決めたのが雰囲気で伝わったのか、ちょうどレインと目が合った。
いつものようにくすりと笑いあうと、聞こえたシャッターの音に心が躍った。
その後レインがスタッフさんに頼んでもらってきてくれた駅ビルのそれよりは格段に小さいけれど、一般的に見ればかなり大きく引き伸ばされたしっかりと2人が写ったポスターは、現在家の居間に貼られている。
恥ずかしくも嬉しいこの贈り物はレインがいない日にも、ちゃんとそこにいてくれてるようで嬉しい。
「それ、すっごく評判よかったんだぁ」
持ってきてくれたレインが嬉しそうに笑うから、きっと本当なんだろう。
普段は関われないレインの仕事のお手伝いが出来たみたいでちょっと嬉しかった。
そして1ヵ月後には文字入れなどの加工がされた大判のポスターがあの駅ビルに貼られることになる。
それが彼の不興を買うことになるのだけれど、そのときの自分はそんなコト思いつきもしなかった。
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