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「わー!」
「きれー!」
「落さないように気をつけてね?」
キラキラと光る色とりどりのちいさな輝き。
こうやって母の宝石箱を見せてもらうのが大好きだった。
「ねぇおかぁさま?」
「あの箱はなぁに?」
見せてもらっているものとは別の、ビロードに包まれた2つの箱。
幼心に気になってすぐに母に問う。
「あれは…そうね、あなたたちがもっと大きくなったら見せてあげる」
すぐに見せてもらえないのが不満でえーとかいますぐがいい!とか散々駄々をこねたのだけど、いつもは優しい母がこればっかりは許してくれなくて。
いつになったら見せてくれるのだろうとずっとずっと心待ちにしていた。
なんとなく、城全体がせわしない。
そこかしこを歩き回るメイド達はどこかうきうきとしていて浮き足立っているし、いつもは厳しい顔の衛兵達の顔もなんとなく綻んでいる。
キャメロットにいたってはいつもの3倍は忙しく立ち回っているのにそれでも機嫌が悪くなることはない。
それもそのはず、2週間後に開かれるパーティのせい。
最もプリンセスらしくないと言われ続けたおひさまの国のプリンセス達が、2週間後に成人する。
それを祝おうと城だけでなく国中が忙しく立ち回っていた。
そして当のプリンセス達も、その例外ではない…はずなのだが。
「…誰も居ない?」
「うん、大丈夫!」
廊下の角にこそこそと身を隠してきょろきょろと辺りを窺う赤と青の影。
誰も見ていないのを確認してせーの!と飛び出す。
「お待ちください!」
それを阻むちいさな影。
今にも走り出そうとするファインとレインを止めたのはルルだった。
「逃げようったってそうはいきませんよー」
「うぅ、もうちょっとだったのに…」
私服の裾をしっかりと掴まれれば逃げ出すことも出来ない。
思いっきりため息をついた2人とは反対にルルは得意気で。
「何年付き合ってると思ってるんですか、あなた方の考えることなんてお見通しです!」
「だったら余計に行かせてー!」
「外には市がたってるんでしょ?見に行きたいのー!」
諦めずにとりあえずじたばたと暴れてみるが、やはり放されることはなくてげんなりする。
せっかく外が賑やかなのにどうして行かせてくれないのだろう。
2週間後のパーティは自分たちが主役だが、意外とやることは少なくて。
警備だったり進行の責任役はまかされていない。
次に開かれる公のパーティや会議には自分たちもなにかしらの責を負うだろう。
だが今回は2人の晴れ舞台だからとすべて父や母が担当になっていた。
自分たちはあいさつだけしっかりやればいい。
スピーチの内容も挨拶の返し方なんかも全部頭に叩き込んだ。
やることはやったのだから行かせろと言い募るのだが、ため息とともに反論されてしまう。
「やることならまだ残ってます」
行きますよと引き摺られ、仕方なく2人は従った。
明日こそ見つからないように抜け出そうね、と目配せして。
連れてこられたのは衣裳部屋。
今までに着たドレスなんかが全て置いてあってなかなか圧巻だ。
しかし一番目を引くのは、手前に置いてあるトルソーに着せられた2着のドレス。
赤と青を基調に作られたそれはやはりファインとレインのためのもので。
それも2週間後のパーティのためだけに用意されたもの。
いつも以上に製作者の気合が込められたドレスにレインはうっとりとしていた。
普段はそれほど興味のないファインも流石にこれには驚くばかり。
「わ、すごいねー…」
いつだったかサイズを測った記憶だけはあって。
仮縫いが終わったから試着をと急かす針子たちに2人は嬉々として隣の小部屋へと入っていった。
「あら、随分綺麗にしてもらったわねぇ」
髪を結い上げられてついでにと薄化粧も施して。
終わったところにちょうどエルザが入ってきた。
すっかり綺麗に作られた娘2人に感嘆のため息を漏らす。
ついこの前まで幼く可愛らしい印象しか残さなかった2人が、こうしてちゃんと成長した姿を見せてくれている。
まだまだこれからな部分はあるけれど、それでも。
嬉しいと同時に少しだけ寂しい。
それを振り切るようにエルザは殊更明るい笑顔を作った。
「お母様!」
「ちょうど良かったわね」
「なにが?」
こっちにいらっしゃいと呼んだテーブルにエルザは2つの箱を置く。
それを両脇から覗き込んだファインとレインはあ、と同時に声を上げた。
「これってもしかして…」
ファインが躊躇いがちにエルザを窺う。
レインも不思議そうに見つめるその先にあるのは2つの箱。
いかにも高級そうな濃紺のビロードに包まれたそれは、幼い頃に母の部屋で見つけたそれと酷似している。
いくらねだっても絶対に見せてくれなかったその箱を、今こそ開けられるのかと2人の目が期待に輝いた。
「ファインはこれを、レインはこっち」
ドキドキしながら待つ2人にそれぞれ差し出された2つの箱。
ファインのそれは平べったく、レインのものに比べて少しだけ大きい。
逆にレインに差し出されたのはファインのそれより小さいけれど高さがある。
お互いに差し出されたそれを見比べながらそっと母を窺う。
「開けていいわよ」
にっこりと微笑んだ母の言葉にファインとレインはそれぞれ目の前の箱に手をのばした。
触れたビロードはしっとりとしていて肌に馴染み、意を決してそっと箱を開いた。
「…わぁ!」
「キレー…」
ファインの手の中には、たくさんのダイヤモンドを散りばめたネックレス。
レインの目の前には、同じようにダイヤモンドをあしらったティアラ。
どちらも贅沢なほどに使われたダイヤモンドを華奢なプラチナの台座が支えている。
一度だけ、これを見たことがある。
昔見せてもらった母の結婚式の時の写真で。
「これはね、私がお義母様からいただいたのよ」
「おばあさまから?」
「えぇ」
政はトゥルースとエルザにまかせてさっさと隠居してしまった祖父母は、確か離宮にいるはずだ。
束縛されることが嫌いな人たちだから、のんびりとすごしたりふらっと旅行に行ったりしているらしい。
ファインとレインのためのパーティを控えた今は、きっと離宮に留まっているだろうけれど。
「トゥルースと結婚するときにいただいて…」
「だから結婚式のときにつけてたのね!」
レインが指摘すれば照れたように笑う母はまだまだ可愛らしいと思う。
そんな母から渡されたものだ、嬉しくないはずがない。
「パーティーでつけて、おばあさまに見せて差し上げて?」
「はい!」
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