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「お久しぶりです、お兄様」
久々の休日にリビングでのんびりとしていたらチャイムの音。
どうせ新聞の勧誘あたりだろうと思ったが、それでも元来の性格かとりあえず覗き窓を見てみればそこには見慣れた、けれど久しく会っていない妹の顔があって迷うことなく鍵を開けた。
「久しぶり、急にどうし…?」
招きいれようとドアを開いたそこには当然ながら妹がいるわけだが。
その横、アルテッサの手を握るちいさな子供。
初めて見るその子は、キレイな青色を纏っていた。
とりあえずリビングに招きいれ紅茶を淹れたのだが、これから用事があるとかで早々に帰ってしまった。
テーブルに残されたティーカップは3脚。
まだ少し暖かい。
それに口をつけるのは現在、2人。
「……」
「……」
気まずい。
非常に。
アルテッサは帰ったが、どういうわけか一緒に連れてきた子供――レインというらしい――を置いていった。
ソファの端にちょこんと座る彼女はとても幼くはしゃいで遊びまわる年頃だろうに、大人しくそこにおさまっている。
両手でカップを持ってちびりちびりと口をつけるさまはそれなりに可愛らしいのだが…如何せん無表情なのが逆にこちらが居心地悪くなってくる。
自分の家だというのに。
明らかに、この幼子に呑まれている。
「…レイン、ちゃん?」
「はい」
張り付いた無表情はそのまま、顔だけがこちらを向く。
じっと見つめてくる瞳は深い青で、とてもまだ2歳のする表情とは思えない。
返事だってそうだ。
はっきり言って、子供らしくない。
「なにか食べるかな?アルテッサがケーキ買ってきたんだけど…」
「いえ、だいじょぶです」
そう言って口をつけるのは両手で握ったティーカップ。
中身は砂糖もミルクもなしの紅茶。
この年頃の子供は甘いものを好むのではないのだろうか。
「あ、そう…」
可愛げがない。
こんな子供と一緒に暮らせというのか。
いきなり妹が押し付けてきた無理難題に頭を抱えながら、とりあえず夕飯の支度をしようとキッチンに立った。
2人いるというのに無言のまま、なんとか気まずい夕飯を済ませた。
どんなものが好きかわからない上、この歳の子供はどんなものなら食べれるのかと悩んだ挙句、結局子供の好きそうなカレーを作った。
もちろん甘口のカレーは自分には物足りなかったが、向かいに座る彼女が特に文句も言わずに食べていたので良しとしよう。
その後風呂に入れようとしたら自分ひとりで入りたそうなそぶりを見せるので、さすがにそれは心配しながらもしたいようにさせてやった。
出てくるのが遅いので心配して覗きに行こうかとも思ったが、無事出てきたのでバスタオルでくるんでやる。
居心地悪そうにしていたがこれぐらいは許されるだろう。
いくら可愛げがなくて大人びた子供だといっても所詮子供だ。
見てやらなければどうなるかわからない。
「もう寝る?」
とりあえずと明らかにサイズの合わないTシャツを着せると、こしこしと目元をこする仕草。
聞けばやはり無表情のままだがこくりと頷く。
今にもくっつきそうな瞼と船を漕ぎ出した頭に苦笑して抱き上げる。
軽いその身体は、やはり子供なのだとあまり沸かなかった実感を持たせて。
風呂上りのせいもあるのだろうが自分よりも高い子供の体温が、やたらと庇護欲を誘った。
「…ん、」
この1人暮らしには十分な家には子供用のベッドも客間なんてものもありはしない。
仕方なく自分のベッドに寝かせてやればもれる微かな寝息。
少しだけ寄せられた眉にその寝顔を窺えば、どことなく苦しそうなその表情。
きゅ、と自分のシャツの袖を握るその手はとてもとても小さくて。
「……ふぁ、ぃん…」
長いまつげの隙間からこぼれた一筋の涙。
きっと知らない大人といきなり2人っきりにされて心細かったに違いない。
それをこの子が聞き分けがいいのに付け込んでごく普通の大人と同様に扱った。
明らかに自分が悪い。
痛々しい目元をそっと拭って、明日はもっと優しくしようと決意する。
どうしたらもっと話してくれるようになるだろうか。
そればかりを考えながらレインの横にそっともぐりこんだ。
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