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大きな通りから少し奥まった静かな場所、そこにそれはあった。
女性が好みそうなかわいらしい装飾が施された看板代わりの白いキャンバス。
ひとつ深呼吸してそれを眺めた。
ここに来るのは2度目だった。
1週間ほど前だろうか。
妹に出掛けるから送ってほしいと頼まれた。
本来なら彼女の婚約者が行くはずだったのだが、急な仕事に都合が悪くなったらしい。
足に使われたのはいいもののいつもなら楽しげにしゃべりたおす助手席が、今日はそわそわと落ち着かない。
そのいつにない様子を気にしつつ、言われるままにハンドルを握れば着いたところはこじんまりとした一軒家のような建物だった。
友人の家なのだろうか。
思いながら妹を見送ろうとギアを変えて降りるのを待つ。
すると降りた彼女がためらいがちに振り返った。
「…ついてきてくださらない?」
驚いて見つめるものの彼女の意思は変わらないようで。
駐車するからと再び違う目的でギアを変えることになった。
その後見た妹の顔は当分忘れられないだろう。
聞けばそこはウェディングドレスをオーダーメイドで作ってくれるところらしい。
半年後に控えた結婚式のドレスのデザインが出来たから確認に来たという妹の顔は、今まで見たことないほど柔らかかった。
あの人一倍照れ屋で意地っ張りな妹が。
デザイン画を見ただけで、綻ぶような、とても嬉しそうな笑顔を見せた。
たったそれだけ。
それだけ、なのに。
それから3日たった今日、いてもたってもいられなくてもう一度ここに来た。
妹の結婚という喜ばしいことが決まったのに、忙しさにかまけてお祝いをしていない自分がいて。
よくよく考えてみれば、おめでとうの一言も言ってない気がする。
そんな自分を恥じて、思い出した。
妹のはにかみながらもとても嬉しそうな笑顔を引き出した、この場所。
ここならば。
なにか具体的なことを思いついたわけではない。
けれどここならば、自分にもなにか妹を祝う手立てを教えてくれるかもしれないといささか楽観的かつ人任せではあるが、妹の祝いに相応しい何かがあるんじゃないかと思って来てしまった。
…のはいいのだけれど。
思い立つままに来たのだから、当然予約などしていない。
本来ならばすべきであろうそれ。
しかし目の前にあるのはもう1度だけ見たキャンバスにかかれた「shine」の文字と、それを囲むように飾られた可愛らしい花々。
今更ながらかなり躊躇う。
ドアの前でどうしようかと迷惑も考えずに突っ立っていた。
「なにかご用ですか?」
いきなり目の前のドアが開いて見える青。
覗き込んでくる瞳は青く澄んでいて。
長く伸ばした髪は瞳と同じ青。
たぶん見覚えが、ある。
「え、あの…」
「ここじゃなんですから、中へどうぞ」
笑顔でいざなわれた先は、応接間らしいソファ。
用件も言わないうちにティーカップを差し出されて、お茶請けまで用意されていた。
予約なんかなくても良かったのだろうかと本気で思い始めたとき。
「アルテッサ様のお兄様ですよね? なにか不都合でもございましたか…?」
どうやら一度来ただけの自分の顔をしっかりと記憶していてくれたらしいことに納得して、差し出された紅茶を口にするといくらか余裕が出てきた。
丁寧に対応してもらったものの、こちらの用件は追い返されてもしょうがないものである。
とりあえず誤解をとかねばと切り出した。
「いえ、妹はとても喜んでいました。とても感謝してます」
ほっと胸をなでおろす様は、思っていたより若いかもしれない。
そこでやっと相手を見る。
青という珍しい色をまとう彼女は、たぶんかなりの美人の部類に入ると思う。
でも硬いイメージはなくて、口元に浮かぶ笑みが優しい雰囲気で。
落ち着いていたはずの心臓が、どきりと波打った。
そんなことを考えている場合ではないのに。
「レイーン、これなんだけど…あ、ごめんなさい!」
ばたんと開かれたドアを振り返れば、そこには彼女とうりふたつの、けれどまったく印象の異なる人がいた。
赤い髪に赤い眼。
顔のつくりはレインと呼ばれた青い彼女と一緒なのに、抱かせる印象はまったく違う。
慌ててドアを閉めようとして持っていた紙の束をぶちまけ、更に慌てて拾おうとして何もないところでこけた。
思わず噴出しそうになるのをこらえる。
「ファイン…」
呆れたように立ち上がるレインが謝ってくるのに笑顔で返せば、しばらくは紙を拾う音が部屋に響いた。
向かって左に赤のファイン嬢。
先ほどの失敗のせいか、ちょっと顔を赤くして照れたような笑みを浮かべている。
その右隣に青のレイン嬢。
申し訳なさげな笑顔を浮かべているが、その表情は優しい。
並んでいると同じ顔の―――たぶん双子であろうことは間違いない―――はずの2人の違いが良くわかった。
めげない笑顔と明るさと、それをフォローしつつ見守る優しさ。
その2人がそろって、今度こそ自分の話を聞いてくれることとなった。
「あの…妹とは関係なく、すごく個人的なお願いになるんですが…」
「では、お兄様もご結婚なさるんですか?」
「いえ、そうじゃなくて」
レインが嬉しそうに目を輝かせたのを見て即座に否定してしまった。
なぜか、つきりと針が刺さったような痛みを覚えたから。
けれど今度こそ訝しげな顔をされてしまって。
無理もないと思いながら、慌てて自分でも要領を得ない説明をぽつりぽつりと話し始めた。
「…ようするに、妹さんを喜ばせるようなお祝いをしたいってことですか?」
「まぁ、簡単に言えばそう、です」
決まり悪げに答えてしまうのは、聞いてくれた彼女達の戸惑いがわかるからであって。
こんな相談をされても困るだけだろう。
それはわかっているのだが、話してしまったからには彼女達を巻き込んでしまったことに変わりはない。
後悔先に立たず、とはこのことだろう。
彼女達が優しく聡明であろうことはこの短時間の間にもわかって、そんな彼女達だからこそ頭を悩ませてしまうことが申し訳ない。
どうしようもなくて謝って辞そうかと腰を浮かせかけたとき、レインが思い立ったように手を叩いた。
「ここでアルバイトしませんか?」
とても楽しそうに言われたその言葉の意味がうまく理解できずに、固まってしまって。
はぁ、と自分でも良くわからない返事をしたのはそれから30秒後だった。
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わかる人はわかると思いますが、ちょっとVBRをパロってます…。
最初はそんなつもりなかったんですが(汗)。
この話は3話くらいで終わらせるつもりなんで、さくさく更新したいなぁ(希望)。
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