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「やぁ、待ってたよ」
控えめなノックに自らドアを開いて迎え入れる。
そこには予想と違わない人物がいて、微かに微笑みさえ浮かべることが出来た。
いぶかしむように目を細めて見つめてくるレインの目は思った以上に鋭くて。
逸らすことすら許されない。
「入って?」
頷いてすっとそらされた視線に苦笑する。
その横顔はどこまでも表情を見せなくて。
どうやら自分は彼女の不興を買ったらしい。
本来彼女はこんなに無愛想な態度をとる人ではない。
そんな彼女を誘ったのは、星の見えるバルコニー。
といってもここから見えるのはこの国全体を包むドームに映された星の光。
このドームの外側が自国から見る月になっていて、今自分は星を見ているのに月の中にいるという不思議な感覚。
おひさまの国にいるというのに今ここは自国から見たら月の中で。
こんがらがりそうに矛盾したこの不思議な国が、まさに今の自分のように思える。
「…どうしたの?」
ちいさく哂ったのがばれた。
なんでもないと返せばまた怪訝な顔にぶつかって。
「本当になんでもないんだ…それより」
聞きたいことがあるんだろう? 問えばこくりと頷くレイン。
聡い彼女のことだ、きっと自分が話したがっているのにも気付いている。
大して面白くもないだろうが、確かに今自分は話し相手が欲しかった。
ちゃんと、聞いてくれて理解してくれる相手が。
「長くなるかもしれないけど、それでも?」
「私は、あなたの気持ちが知りたい」
その表情と同様に感情を見せない声が夜風を震わせた。
「そうだね…何から話そうか」
時間はたくさんある。
ちゃんと、彼女に伝わるといい。
そう思いながらあの日に思いを馳せた。
「…レインとシェイドが、結婚するの?」
そうなればいい。
レインとシェイドが結婚すれば邪魔なシェイドは消えてファインは自分のものになる。
ファインとシェイドのつながりを思って一度は諦めたけれど、自分にチャンスがめぐってきた。
きっとファインは傷つくだろうけれどその傷も時間が癒してくれるだろう。
もちろん自分もその手伝いをする。
弱みに付け込むようであまりいい気はしないが、レインもシェイドもいなくなればおのずと慰める人がいなくなるのだから自然なことだ。
確かにそう思っていた。
だからアルテッサが強く言うのも本気で止める気はなかった。
「何泣いてるのよ…」
悲しむだろう。
泣くかもしれない。
予想の範囲だった。
実際泣き出した彼女を慰めるつもりだった。
それなのに。
「……」
静かに声を上げることなくただただ流される涙。
純粋な、絶望にも似た悲しみだけを浮かべた瞳。
心臓が止まるかと思った。
それと同時に理解した、こんな彼女を自分が癒すことなど出来やしない。
「…ふぇっ……アルテ、さ…」
やっと泣いてることを自覚したファインがアルテッサにしがみつく。
その光景に思わず違和感を覚えて。
それがなんなのか理解した瞬間、無意識のうちに手を伸ばしていた。
「そんなに、彼らの結婚が嫌?」
既に赤くなった目元が痛々しく、そっと指先で雫を払う。
歪んだ顔のまま見上げてくる顔に殊更安心させるように微笑んだ。
「僕の言うとおりにしてごらん」
君が頑張ったら、きっとうまくいくよ?
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