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町の商店街にあるささやかなケーキ屋。
従業員はわずか4名で、そのうち2人がバイトという本当に小さな店である。
そのバイトは二人とも女の子なのだが、そのうち1人がレインという名の専門学生それも製菓を学んでいたりする。
まぁ時には手伝ってもらったりととてもありがたい存在なのだが、その彼女がこのクリスマスのかきいれ時に3日連続で入ってくれると言う。
店としてはとてもありがたく、個人的にもとても嬉しかったりするのだが。
惚れた欲目をさし引いて見ても、彼女は可愛い、と思う。
そんな彼女の分身かとも思ったふたごの姉妹が昨日店に来たときは心臓が飛び出るほど驚いたが、その印象の違いに随分と感慨深い思いをさせられた。
更には彼女への恋心を再確認するというおまけもついてきたのだが。
今考えているのはそんなことではなくて。
「本当に休まなくてよかったのかい?」
今更な質問だとは思う。
25日の午後9時過ぎ、閉店時間をとっくに過ぎている。
イコール彼女の3日連続勤務が終わった。
他2人の従業員はついさっき出て行ってしまって今は2人だ。
この状況を嬉しいと思いつつも申し訳ないと思うのも確かで。
「気にしないでください、好きでやってるんですから」
満面の笑顔付きで言われてしまったらもうそれ以上いえなくて。
こんなに可愛らしい彼女のことだ。
恋人の一人や二人いてもおかしくはないと思う。
いてほしくないと思うと同時に、今日この日を仕事という名目ではあるが一緒にいられて単純に嬉しい。
きっといるであろう恋人には申し訳ないが。
「…外は寒いだろうね、早く帰ろうか」
「はい」
離れたくはないのだけれど、出来ることならもう少し一緒にいたいのだけれど。
引き止める理由も権利もなくて。
苦し紛れに思いついたのは。
「随分遅くなったし、送っていくよ」
「…いいんですか?」
その目が微かに輝いた。
…なんて自分に都合が良すぎる解釈だろうか。
『好きでやってるんですから』
彼女は本当に製菓が好きなんだなと実感させられる。
自分も好きでやってきたけれど、彼女ほどではなかったと思う。
「最初はファインのために作ってたんです」
あぁ、昨日の彼女かと思い出すのはレインとは対照的なまでに違う明るい赤。
どこか似ているけれど、やっぱり違うと思う。
特にその、表情が。
「あんまりおいしそうに食べるから作りすぎちゃうこともよくあって」
照れたように笑うその顔は、それでもどこか優しさに溢れている。
「僕も食べてみたかったな」
「本当ですか!?」
「…うん」
ぽろりと零れてしまった本音に声を上げて喜ぶ彼女がいとおしい。
恋人ならば、こんな彼女を独占できるだろうに。
見もしないその人をちょっとだけ…かなり羨んだ。
「じゃぁ、バレンタインはすっごく頑張ります」
バレンタイン?
だってそれは随分先の話だけれど、まぁそれほど遠くもなくて。
でもその日は男女にとっては特別な日で。
「…え?」
思わず彼女を見れば俯き加減にせわしなく足を動かしている。
その表情は見えないけれど、上からはその真っ赤になった耳が見えた。
寒さだけではきっとこんな風にならないはずで。
「楽しみにしてるよ」
考えていたこととはまったく逆であろうその事実。
にわかには信じがたいけれど、きっと都合よく解釈してもいはずだ。
だってほら、今握った手が振り解かれない。
絡めた指先がびっくりするほど熱い。
驚くように見上げられた瞳が真っ赤で、微かに潤んでいる。
「頑張って」
その目元にそっと唇を落した。
だから彼女はあんなに熱心にバイトに来てくれたのかと思うとにやける顔が止まらない。
しかも年始周りの手土産につきものなケーキのおかげで年明けのケーキ屋は結構忙しい。
そんな頃にも既に入ってくれる気まんまんの彼女にただ純粋に感謝と微かに邪な喜びを感じていたのだけれど、それもなんだかもうひたすら嬉しくて。
きっと年末年始も楽しく働けそうだ。
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