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剣技の稽古が早めに終わって少し時間をもてあましていたブライトは、ふと思い立って城の裏庭を散策していた。
裏庭と言っても明るく開けた場所で、毎日庭師たちが丁寧に手入れをしているから、季節の花たちが咲き乱れている。
中でも目を引いたのは、淡いピンクの桜草。
花壇の前面を覆いつくすように植えられていて、ピンクと緑のコントラストがとてもきれいだ。
「あれ…?」
そのコントラストの下のほう、花壇の端になにか青いものが落ちている。
庭師の誰かがスコップでも忘れたのだろうか。
「違う、卵だ…」
近づいてみて手にとってみる。
淡い青色をしたそれは、ほんのりと暖かい。
どこか木から落ちてしまったのだろうかと見渡してみるけれど、どこにもそれらしいものは見当たらなかった。
「お前の親はどこにいるんだい?」
問いかけてみるもののもちろん返事はなく、けれどそのまま置いておくのもためらわれて、とりあえず自室に持って帰ることを決めた。
途中出会った侍女の一人に真綿を手配し、部屋に戻る。
まだ暖かいからきっと温度を整えてやれば孵るだろう、そう思っての行動だった。
だが、いざ温めるとなるとどうしたらいいのだろう。
季節は既に春を迎え、ストーブのある時期でもない。
さてどうしようと考えて、とりあえず自分のベッドに腰掛けつつ重ねた布団の上に卵を置いた。
コツ。
今、音がしたような。
コンコン。
あっと思う間に、卵にひびが入り、ぱらぱらと殻が剥がれていく。
そしてその隙間から覗いた小さな手のひら。
…手のひら?
さらにひょこっと出てきたもう一本の手で卵の殻を掻き分けてそれは出てきた。
ブライトの存在に気づくと、ぱちくりと大きな目をしばたかせてにっこりと笑った。
「はじめまして、レインです!」
出てきたのは、小さな小さな女の子だった。
* * *
真綿にくるまり、レインが眠っている。
それを見てブライトはため息をついた。
…どうしたものか。
あまりのことに呆然とする頭は、すでに考えることを放棄気味でうまく働かない。
突然目の前に現れた彼女に、どうしたらいいのか悩んでいた。
「小鳥が出てきたら世話するつもりだったんだけど」
いざ卵から出てきたのは、小さな女の子だった。
あまりのことに驚いて固まっていたブライトをよそに、レインは部屋中を興味深げにきょろきょろとし、目をキラキラさせていた。
その目に押されて案内しようかと興奮気味の彼女を手に乗せ一通り部屋を一周し、またベットに戻ってきた頃には疲れたのか眠ってしまった。
そこへタイミングよく真綿を持った侍女が来たので、彼女を隠しつつ真綿を受け取り、その上へ寝かせた。
つい隠してしまったのは、なんとなくだ。
自分でもよくわからない。
なんなんだろう、この気持ちも、彼女も。
そんな自分を放っておいてすやすやと眠るレイン。
その桜色のほっぺたを、むにと指でつついてみる。
むずがるように眉をしかめ、そっぽを向いてしまった。
…ちょっと可愛いかもしれない。
「小鳥と同じだと思えばいいか?」
今更放り出すわけにもいかないし、と自分に言い聞かせてみる。
なんとなく、にぎやかになりそうな予感がした。
* * *
いつもなら母や妹と共にすることが多いティータイム。
今日は読みたい本があるからと自室に引きこもって、けれどその実レインと二人で過ごすいつもと違うティータイム。
お茶請けは専属パティシエ自慢のマドレーヌだった。
「そんなに急がなくても逃げたりしないよ」
やはりというか甘いものが好きらしいレインは、またも目をキラキラさせていた。
半分にちぎったマドレーヌを渡すと、すごい勢いで食べ始める。
彼女の顔よりも更に大きいマドレーヌがあっという間に半分になった。
その姿はまるでリスが胡桃をかじっているような愛らしさがある。
や、まぁたしかに彼女も小動物ではあるのだけれど。
ようやく一息ついた彼女に紅茶を勧める。
「ありがとうございます」
律儀に礼を言うとマドレーヌをお皿において、テーブルの上をとことこと近寄ってくる。
ティーカップは当然ながらブライトのものひとつしかない。
身長わずか15cm程のレインは、ティーカップの横に並ぶ。
ソーサーの縁に立つ彼女に、ブライトはティーカップを少しだけ傾けてあげた。
んっ、と一生懸命に紅茶と格闘する姿は可愛らしいといえなくもないが、それより何より飲みにくそうである。
見かねたブライトは、ティースプーンに紅茶をすくい、彼女の口元にそれを寄せた。
やはりレインはんっしょと言いながら一生懸命スプーンの紅茶を飲み干している。
多少ましになったとはいえ、相変わらず飲みにくそうである。
「なにか、考えないとな…」
* * *
「貸してほしいのもがあるんだけど」
午前の剣技の修練後に妹を訪ねた。
そういえば昔まだ妹が幼かったころに、人形遊びをしていたことがあった。
時折つき合わされるそれは男子としては退屈だったが、時たま妹の発想や発言に驚きがあり、案外自分を飽きさせなかった。
そのとき人形たちが使っていた家具やら食器やらはもちろん人形サイズで、レインが使うにはぴったりかもしれないと思い立ったのが昨日の夜だった。
一国の姫である妹用に特別にしつらえられたそれらは、子供のおもちゃとして十分すぎるほどであったように今なら思う。
まさかそんな代物をほいほいと捨てるはずもないだろうからと尋ねてみた。
「もちろんとってありますわ。ちょっと待っていてくださいな」
知り合いの子供が使いたがっているという言い訳も用意はしていたのだが、特にいぶかしむこともなく手渡されたそれは、記憶の中のそれよりもさらに小さく見えた。
さっそく自室に持ち帰り、出窓で日向ぼっこをしていたレイン前にそれらを広げる。
白木をアンティーク調に削りだし、細かな意匠が施されたベット。
これまた同じ白木でできた直径18cmほどのテーブルと、それとそろいの椅子が4脚。
その椅子にはかわいらしい花の刺繍が施されたピンクの布が張ってあり、すわり心地もよさそうだ。
もちろんベットとそろいの細かな意匠が施されている。
その横に置いた箱の中には、陶器の食器。
お皿はもちろんカップやソーサー、花瓶までどれも真っ白な陶器に鮮やかな青いインクで上品な蔦や花の柄が描かれている。
おまけに銀色のフォークやスプーンまでついている。
どれもこれも、王室の人間が使うにふさわしいといったたたずまいでそこにある…その小さなサイズを除けば。
「これどうしたんですか!?」
「…借りた」
「へーすごーい!!」
これに小躍りしそうな勢いで喜んだのはもちろんレインだ。
「使ってみていいですか??」
「もちろん。どうぞ」
彼女のために用意したのだから当然なのだが、ここまでぴったりだとは思わなかった。
レインは椅子に腰掛けてみたり、ベットに寝転んで枕を抱きしめてごろごろしたり、顔ほどの大きさもあるお皿を眺めて目をきらきらさせたりと忙しい。
一通りためつすがめつすると、一脚のいすに腰掛けてテーブルに両手で頬杖をつくとしばしうっとりとした表情でまどろんでいた。
少しだけ開けた出窓から風が吹いて彼女の髪をなびかせると、ふわりと揺れた髪がまるで青い絹糸のようにきらきらと光った。
その光景のあまりのまぶしさについ目を細めていると、彼女がはっとした表情で勢い良く立ち上がった。
その先ほどまでの愛らしい様子とは間逆のあまりの勢いに何事かと驚いていると、レインはこちらに向き直りひたりと大きな目をこぼれんばかりに見開いて口をあけた。
「ありがとうございますっ!」
「…どういたしまして」
* * *
借りてきたミニサイズの家具達は、ブライトのベットに一番近い出窓に落ち着くことになった。
今は暖かい時期だし、窓際でもそこまで冷えることもないだろう。
窓の外はすっかり闇色で、月明かりに星が霞んで見えた。
夕暮れ前に窓は閉めていたが、瞬く星をその目に映してレインがじっと外を眺めている。
青い瞳が今は空と同じ闇色だ。
「もうそろそろ、消すよ?」
「はーい」
サイドテーブルのランプを消す前に声をかければ、振り返ったレインがお行儀良く返事をした。
ふっとランプを吹き消してレインを見ると、とことこと出窓の端まで歩いてきて、ぴょこぴょこと手招きする。
「なんだい?」
「手、出してください」
「手?」
不思議に思いながらも右手を差し出す。
移動でもしたいのかと思い手のひらを上に向けると、違うと人差し指を持ち上げられた。
ぶつからないように気をつけながら手をひっくり返して差し出すと、そのちいさな二本の手で人差し指の先を支えると。
ちゅ。
爪の先に口付けられた。
「おやすみなさい」
それに満足したのか笑顔で挨拶すると、そのままベットへもぐりこみ絹のハンカチの布団をかぶる。
程なくしてすやすやと穏やかな寝息が聞こえた。
「……おやすみ」
やっと硬直から解けたブライトは、既に夢の住人となったレインに聞こえないおやすみを言ってから床に就いた。
元ネタは王子さまLv1.5ですよー。
誰得!?って感じで元ネタわかる人の方がきっと希少種なので気にしなーい!
続きそうで続かないYo!!