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身体がだるい。
節々が痛い気がして気が遠くなる。
でも、何よりも苦しいのはこの胸の焦燥感。
城を出てからなんだかだるい。
なんだか気持ち悪いというかすっきりしない、もやもやする。
久しぶりに乗った馬車のせいだろうと隣に座るキャメロットが冷たい飲み物を差し出してくれるのだが、一向に良くなる気配はなくて。
レインがいなくて落ち着かないのはあるのだけれど、それだけじゃこんな風にはならないはず。
もっともっと身体の芯から冷えるような、それでいて生ぬるい風に撫でられているような。
「ファイン様、大丈夫ですか?」
差し出してくれる手を握ったとき、きゅっと胸が痛んだ。
急にじわじわと這い上がってくる寒気と怖気。
頭の中が真っ白になるのに目の前は真っ暗になる。
この感覚は知っている、夏の日にしゃがみこんだ砂場から立ち上がったときのあれと同じだ。
…と思った瞬間にはもう意識を手放していた。
「これが最初なの」
「キャメロットが急いで帰ってきたときはもうかなり危なかったわ」
血の気が引いて真っ白な肌、青ざめた唇、冷たい体温。
意識はなくて呼吸も弱弱しい。
突然のそれは原因がわからず。
しかし何よりレインの身体を強張らせたのは。
「…薄かったの」
なにが、と訝しげな二対の視線がレインを見てファインに移る。
しかし当然ながら見ることのなかったファインは曖昧に笑ってレインの手を握る。
その手は微かに震えていた。
思い出すだけでこうだ。
もう二度と、あんな恐怖味わいたくない。
「ファインの影も、身体も」
日の光で自然にどこにでも出来る影。
ファインのそれが、自分のそれよりも明らかに薄かった。
何度も何度も呼びかけて抱きしめてひたすらに求めた、意識が戻るようにと。
程なくしてその願いが届いたのかすぐに何事もなかったかのように目覚めたファイン。
本当に、なにもなかったかのように、平然と。
「それからいろいろ試してみたんだけど…」
結局わかった事は。
「ファインは私から離れられない」
離れたらまた例の発作のような症状がファインを襲う。
原因はたぶん、ファイナルプロミネンス。
不完全な形で発動されたファイナルプロミネンスは、ファイン・レインの身体から足りない分のエネルギーを奪った。
そこにプーモが飛び込み、更にはプリンセスグレイスの助けによって彼女ら自身の消失は免れた。
トゥルースと同じ事を繰り返すレインにシェイドは眉をひそめる。
それを視線だけで制したレインが続ける。
「だけど、奪われたエネルギーがすべて返ってきたわけじゃなかった」
グレイスの助けが入ったときにはもう星がエネルギーを奪い始めていたから。
一度奪われ、星の力となったエネルギーは彼女達から完全に離れてしまった。
もう戻ってくることはない。
「じゃあなぜ…」
今は平気なのか。
現にさっきファインは倒れた。
なのに今はもうなんともない。
この差は、どこから来るのだろうか。
「いろいろ試してみたんだけど…」
「最初に倒れたのが、私が1人で城から出たときでしょ?」
ひとり。
わざと強調されたその言葉。
「今度はレインが城から出てみたの」
「レインが倒れた?」
被せたシェイドの問いにレインが俯いて首を振る。
それを見たファインがそっと寄り添って握り締めた手をそっと包む。
どこか苦笑めいたその表情にシェイドは胸を打たれる、こんな表情する子じゃなかったのにと。
「ちがうの、また私が倒れたんだ」
微かに震えるレインの抱きしめてファインが放った言葉にシェイドが目を見開く。
どうして、と。
「私は、レインから離れられない」
王家付きの主治医やオメンドを筆頭とする研究者達が出した結論。
それは、奪われたエネルギーをお互いが傍にいることで補い合っているのではということ。
一度は2人の身体から離れたエネルギーも星に吸収される前に戻ったとしたら、それが混線して絡んだとしてもおかしくはない。
だから、離れたら補えなくなる。
身体が不調を訴えて、倒れる。
この立てられた仮説にもやはり、なぜファインにのみそれが現れるのかという疑問は残るのだが。
「あ、でもレインがいなくてもプーモがいればちょっとはマシになるんだよ」
一応あの場に居たんだし?と笑うファインの表情にはなんの翳りもない。
それが、どれだけ周りの救いになっているのかこの子はわかっていないのだろう。
話すだけでも耐えられないとでもいうように震えるレインをちょっと困った風に笑って宥めるファインが、ここ最近の成長ぶりをあらわしているようで救いなんだときっと誰もが思った。
「…だからって死んだことにするなんて――」
「それは何度も説明されたじゃないか」
「そうだけど、でも」
言い募るシェイドにブライトが視線だけでたしなめる。
終わった今となってはもう無駄だ。
あれだけ大々的にファインの死をふしぎ星中に知らしめたのだから。
今二人はあてがわれた客間にいる。
今日はいろいろあって疲れただろうから、とルルが用意をしてキャメロットが案内してくれた。
確かに疲れていてさっさとベッドに入って休みたかったのだが、お互いまだ納得しない部分が多く少し話そうということになってシェイドの部屋で寛いでいた。
「いつ二人が別の場所に行かなければならない公務が入るかわからない」
腕を組んでうっすらを目を細めたブライトが言う。
その視線は窓の外だけれど、決して景色を眺めているわけではない。
「だから、どちらかが死んだことにして密かについていくことにする」
他国に行くとき、特に公務ではその道行きに使用人たちが付いていくことが多い。
むしろ大人たちは必ずといっていいほど連れて行く。
過去の自分たちのほうがおかしかったのだ。
だからどちらかが国を出る際、侍女たちに紛れてもう一人が付いていくことに問題はない。
そして表に立たず侍女たちに紛れるのは、当然ながらファインのほうが都合がいい。
もしも避けられない事象が起きたときに倒れられたら困るから。
ただでさえ理由のはっきりしない病に冒されながら公務を続けるというプレッシャーから逃したかったというのも周りの意見であろう。
結果、今日の大々的な葬儀になったわけだが。
理由としてはそれなり納得する。
もっと他に別の道があったのではないかと思うが、それなりに追い詰められていたと思えば理解できなくはない。
ただ、シェイドの感情が納得しない。
どうしてファインだけが、と。
これはファインの死を聞かされたときと同じだった。
今はあのときほどのショックはないけれど、それでも、素直に納得しかねる。
だからといって事実が変わるわけではないのだけれど。
それでも思わずにはいられない。
どうして――…。
「そんなに考えるな」
深くついたため息を見咎めてか、ブライトが苦笑交じりに声をかける。
その目は、今度ははっきりシェイドを見ていた。
なぜ、あんなにも迷いがないんだろう。
「今は別のことを考えるべきだよ」
一瞬だけ見せた、真剣な色。
その赤い瞳はファインと同じで少し違う。
もっともっと濃く、沈みこむような、濡れた赤。
彼は、こんなにも深い気配を見せる男だっただろうか。
「僕達に出来るのは、それぐらいだから…」
ふと和らいだその表情が、どこか寂しげに見えた。
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久しぶりに乗った馬車のせいだろうと隣に座るキャメロットが冷たい飲み物を差し出してくれるのだが、一向に良くなる気配はなくて。
レインがいなくて落ち着かないのはあるのだけれど、それだけじゃこんな風にはならないはず。
もっともっと身体の芯から冷えるような、それでいて生ぬるい風に撫でられているような。
「ファイン様、大丈夫ですか?」
差し出してくれる手を握ったとき、きゅっと胸が痛んだ。
急にじわじわと這い上がってくる寒気と怖気。
頭の中が真っ白になるのに目の前は真っ暗になる。
この感覚は知っている、夏の日にしゃがみこんだ砂場から立ち上がったときのあれと同じだ。
…と思った瞬間にはもう意識を手放していた。
「これが最初なの」
「キャメロットが急いで帰ってきたときはもうかなり危なかったわ」
血の気が引いて真っ白な肌、青ざめた唇、冷たい体温。
意識はなくて呼吸も弱弱しい。
突然のそれは原因がわからず。
しかし何よりレインの身体を強張らせたのは。
「…薄かったの」
なにが、と訝しげな二対の視線がレインを見てファインに移る。
しかし当然ながら見ることのなかったファインは曖昧に笑ってレインの手を握る。
その手は微かに震えていた。
思い出すだけでこうだ。
もう二度と、あんな恐怖味わいたくない。
「ファインの影も、身体も」
日の光で自然にどこにでも出来る影。
ファインのそれが、自分のそれよりも明らかに薄かった。
何度も何度も呼びかけて抱きしめてひたすらに求めた、意識が戻るようにと。
程なくしてその願いが届いたのかすぐに何事もなかったかのように目覚めたファイン。
本当に、なにもなかったかのように、平然と。
「それからいろいろ試してみたんだけど…」
結局わかった事は。
「ファインは私から離れられない」
離れたらまた例の発作のような症状がファインを襲う。
原因はたぶん、ファイナルプロミネンス。
不完全な形で発動されたファイナルプロミネンスは、ファイン・レインの身体から足りない分のエネルギーを奪った。
そこにプーモが飛び込み、更にはプリンセスグレイスの助けによって彼女ら自身の消失は免れた。
トゥルースと同じ事を繰り返すレインにシェイドは眉をひそめる。
それを視線だけで制したレインが続ける。
「だけど、奪われたエネルギーがすべて返ってきたわけじゃなかった」
グレイスの助けが入ったときにはもう星がエネルギーを奪い始めていたから。
一度奪われ、星の力となったエネルギーは彼女達から完全に離れてしまった。
もう戻ってくることはない。
「じゃあなぜ…」
今は平気なのか。
現にさっきファインは倒れた。
なのに今はもうなんともない。
この差は、どこから来るのだろうか。
「いろいろ試してみたんだけど…」
「最初に倒れたのが、私が1人で城から出たときでしょ?」
ひとり。
わざと強調されたその言葉。
「今度はレインが城から出てみたの」
「レインが倒れた?」
被せたシェイドの問いにレインが俯いて首を振る。
それを見たファインがそっと寄り添って握り締めた手をそっと包む。
どこか苦笑めいたその表情にシェイドは胸を打たれる、こんな表情する子じゃなかったのにと。
「ちがうの、また私が倒れたんだ」
微かに震えるレインの抱きしめてファインが放った言葉にシェイドが目を見開く。
どうして、と。
「私は、レインから離れられない」
王家付きの主治医やオメンドを筆頭とする研究者達が出した結論。
それは、奪われたエネルギーをお互いが傍にいることで補い合っているのではということ。
一度は2人の身体から離れたエネルギーも星に吸収される前に戻ったとしたら、それが混線して絡んだとしてもおかしくはない。
だから、離れたら補えなくなる。
身体が不調を訴えて、倒れる。
この立てられた仮説にもやはり、なぜファインにのみそれが現れるのかという疑問は残るのだが。
「あ、でもレインがいなくてもプーモがいればちょっとはマシになるんだよ」
一応あの場に居たんだし?と笑うファインの表情にはなんの翳りもない。
それが、どれだけ周りの救いになっているのかこの子はわかっていないのだろう。
話すだけでも耐えられないとでもいうように震えるレインをちょっと困った風に笑って宥めるファインが、ここ最近の成長ぶりをあらわしているようで救いなんだときっと誰もが思った。
「…だからって死んだことにするなんて――」
「それは何度も説明されたじゃないか」
「そうだけど、でも」
言い募るシェイドにブライトが視線だけでたしなめる。
終わった今となってはもう無駄だ。
あれだけ大々的にファインの死をふしぎ星中に知らしめたのだから。
今二人はあてがわれた客間にいる。
今日はいろいろあって疲れただろうから、とルルが用意をしてキャメロットが案内してくれた。
確かに疲れていてさっさとベッドに入って休みたかったのだが、お互いまだ納得しない部分が多く少し話そうということになってシェイドの部屋で寛いでいた。
「いつ二人が別の場所に行かなければならない公務が入るかわからない」
腕を組んでうっすらを目を細めたブライトが言う。
その視線は窓の外だけれど、決して景色を眺めているわけではない。
「だから、どちらかが死んだことにして密かについていくことにする」
他国に行くとき、特に公務ではその道行きに使用人たちが付いていくことが多い。
むしろ大人たちは必ずといっていいほど連れて行く。
過去の自分たちのほうがおかしかったのだ。
だからどちらかが国を出る際、侍女たちに紛れてもう一人が付いていくことに問題はない。
そして表に立たず侍女たちに紛れるのは、当然ながらファインのほうが都合がいい。
もしも避けられない事象が起きたときに倒れられたら困るから。
ただでさえ理由のはっきりしない病に冒されながら公務を続けるというプレッシャーから逃したかったというのも周りの意見であろう。
結果、今日の大々的な葬儀になったわけだが。
理由としてはそれなり納得する。
もっと他に別の道があったのではないかと思うが、それなりに追い詰められていたと思えば理解できなくはない。
ただ、シェイドの感情が納得しない。
どうしてファインだけが、と。
これはファインの死を聞かされたときと同じだった。
今はあのときほどのショックはないけれど、それでも、素直に納得しかねる。
だからといって事実が変わるわけではないのだけれど。
それでも思わずにはいられない。
どうして――…。
「そんなに考えるな」
深くついたため息を見咎めてか、ブライトが苦笑交じりに声をかける。
その目は、今度ははっきりシェイドを見ていた。
なぜ、あんなにも迷いがないんだろう。
「今は別のことを考えるべきだよ」
一瞬だけ見せた、真剣な色。
その赤い瞳はファインと同じで少し違う。
もっともっと濃く、沈みこむような、濡れた赤。
彼は、こんなにも深い気配を見せる男だっただろうか。
「僕達に出来るのは、それぐらいだから…」
ふと和らいだその表情が、どこか寂しげに見えた。
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