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失敗した、心底そう思ったのはクリスマスイヴの夕方5時。
彼女と知り合ったのは大学のゼミだった。
自分は助教授。
彼女は生徒。
所謂教え子に手を出した、というヤツだ。
背徳感がないわけではないけれど、好きになってしまったものはしょうがない。
幸い彼女も同じ気持ちでいてくれたのだから、ロリコンと言われようがなんだろうがもう諦める理由なんかない。
この日のために、特にイベントなんかに興味もなくいつもと変わらないその日を送っていたはずの自分が、彼女のために1ヶ月も前からプレゼントの選定をして。
あの赤い髪に瞳に似合うのはなんだろうと考え始めたら結局決めるのに3週間もかかってしまった。
これほどまでに浮かれている自分はあまり見れたもんじゃないが、それでもそんな自分もたまにはいいかと思わせるほど彼女の存在は絶大だ。
そんな彼女と過ごすはずだった初めてのクリスマスイヴ。
今年最後の閉めにと仕事柄仕方なく学校に出勤して、彼女ともそこで待ち合わせ。
暗くなったら一緒にディナーをと思っていたのだが。
「あれ、ファインじゃん!」
「今日は彼とデートじゃなかったのかよ?」
そろそろファインも来る時間かと事務課に用事を済ませて戻ってきてみると、たまたま来ていた同じゼミの生徒に当の彼女が捕まっていた。
まさか目の前いにいる助教授がその相手なんですなどと言えるはずもなく適当に濁しているファインを見て、何を勘違いしたのか連中が放った言葉は。
「もしかして…フラれた?」
盛大に違うと否定しても逆効果らしく、そのまま流れで自棄酒に付き合うという名目の飲み会が決まってしまった。
ふざけるなと声を大にしていいたいが、そんなこと言える筈もない。
彼らの強引な誘いに財布としてついて行かざるを得なくなった。
もちろん、男だけの中ファインを一人で行かせるわけにもいかなかったし。
来なけりゃ良かった。
2度目のため息は午後8時を回ったところ。
そう多くはない人数でやたらとハイペースで飲みやがって、会計が半端ないことになっている。
俺のことなんだと思ってるんだこいつらは。
イライラしながら会計を済ませて席に戻ってみると、やはりというかさっきのままなのだが、ファイン以外の全員がつぶれていた。
「大丈夫かな?」
苦笑しながら視線をよこされても答えようがなく。
そもそもまだ8時だぞ?
なんなんだこの潰れ様は。
まぁ理由はわからなくもない。
明るく笑うファインのまわりにはいつも人が集まった。
それは文字通りでもあったし、それ以上の意味でもある。
そんなファインに彼氏が出来たと聞いて泣いたやつはかなりいたはずだ。
この連中の中にも何人かいただろう。
それが勘違いではあるがフリーに戻ったとはしゃいだところにきた酒だ、つぶれても仕方ないかもしれない。
けれどそれを知っていてもまったくもって譲る気はなくて。
まぁ今日のことはファインを奪った代償だとでも寛大に思っておくことにする。
これからはこんなに甘くするつもりはないが。
「あいつ起こして適当に帰らせようぜ」
「そうだね」
普段は1番酒に強いはずのやつを強引に起こしにかかる。
こいつも本気で泣いたくちだろうか。
そうでもなければこれしきの量の酒でつぶれるはずがない。
「ほら、起きろ」
「あ…センセ?」
「お前こいつら何とかしろ」
「あー…あ、ファインは…」
「俺が責任持って送ってく、心配すんな」
「はい…スイマセン」
イマイチはっきりしない口調でそれでも返ってきた答えにここは大丈夫だろうとファインを連れて後にする。
こんな連中とファインを一緒にいさせたくない。
…そう思うのは自分のエゴなんだろうけど。
「ごめん、ね?」
「…なんでお前が謝るんだ」
車に乗り込んだ途端に発された声の意味がわからなくて、一瞬だけ間が空いてしまった。
もう一度ごめんの声が聞こえてから、ファインが俯き加減でぼそぼそしゃべり始める。
「本当は二人でいたかったでしょう?…ってホントは私が一緒にいたかったんだけどね」
はにかんだように笑う顔がまぶしくて。
それだけで今日のことはもう水に流せる。
「いいさ。明日の夜までは独占するつもりだし?」
こんな気障ったらしく余裕で言えるのは今になったからだけど。
それでもファインの前でくらい格好よく見栄を張りたい大人でいたい。
運転しながら視線を流せば頬を染めたファインが見えた。
今のところ付け焼刃の演技は有効らしい。
「あ!」
「どうした?」
「ケーキ!」
もうすぐ家に着こうかという頃、突然叫んだ言葉に苦笑する。
なんとまぁファインらしい。
けれどそろそろ時間も遅く、売っているかどうかも怪しい。
指摘すれば一瞬つまらなそうにゆがめられた唇も可愛らしいのだが、どうせなら笑っていて欲しい。
ケーキはファインに好きなものを選んでもらおうと思っていたから予約してすらいなくて。
どうしようかと思案すれば、またあ、とファインの声が聞こえた。
急に笑顔になった顔を窺えば、なにやらあてがあるらしい。
携帯を取り出すといそいそとケーキの取り置きを頼んでいて。
口調から随分親しげな様子が伝わってくる。
切られた電話に笑顔がついてきて、とりあえず言われるがままに車を走らせた。
結局家に帰ったのは9時半過ぎ。
ファインの示すケーキ屋で、色違いのファインを見つけて驚いて。
レインと名乗った彼女はファインのふたごの姉妹らしく、けれどどこか違う印象を見せられて同じ顔でもこうまで違うのかとまた驚いた。
そんな彼女が取り置いてくれたケーキはきらきらと輝いていて、更に店長らしいパティシエにはマカロンなどのちいさな焼き菓子の詰め合わせまでおまけにつけてもらってしまった。
随分得をしたと笑うほくほく顔のファインに自分までもどこか嬉しくなってしまう。
「美味しいね!」
「あぁ」
たまには甘いものも悪くないと思う。
しつこさのないクリームの甘味にどこか酔わされた気分になって。
特に根拠もなく、今しかない、と思った。
「手、出して」
「なに?」
軽くフォークをくわえたままのファインに笑いかけて。
普段あまり笑わないせいだろうか、それだけでファインが真っ赤になるのがわかった。
こんなことでファインの心を奪いえるならいくらでもするのに。
それともたまにやったほうが効果的なんだろうか。
…って今はそうじゃなくて。
「…これって」
「クリスマスプレゼント、だ」
右手の薬指にそっとはめたのは華奢なデザインのシルバーのリング。
小さなダイヤとルビーをあしらったそれは3週間悩みぬいてやっと決めたものだった。
笑う顔が見たくて、いつでも自分を思い出してほしくて、周りにファインは自分のものだと主張したくて。
拒否されるとは思ってない。
けれど、微かな不安は拭いきれない。
「…しなくてもいいから、持っていてくれ」
「するよ!ずっとつけてる!!」
さっきよりも、これ以上ないくらいに真っ赤になった顔に主張されて。
押されて、でも嬉しくて。
「ありがとう…」
これでゼミの連中に対する心配はちょっと減った、と思う。
次に会ったときにファインの指輪を見てまたショックを受ければいいんだ。
今日の仕返し、でもないが。
ファインに対する独占欲にも似たこの思いは消えないけれど、それでも初めて大切にしたいと思った相手だから。
イベントは一緒に祝おう。
傍にいよう。
ずっとずっと大事にするから。
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