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「愛しい」、初めて感じたこの想いを大切にしたいのだけれど。


歩き出した瞬間に、ほっとして肩から力が抜けた。
隣を歩くのは先ほどとは変わってファインになっていたから。

ブライトが持ってきた四枚のチケットに誰を誘ったかなんて言うまでもない。
彼と自分と、ファインとレイン。
弾む心と同時に沈む気持ちが大きかった。

いつもいつも眩しいほどに向けられる明るい笑顔。
どんなときだって途絶えないその笑顔を見るのが好きだった。
途切れさせない、守ると密かに誓ったのはもう随分と前のことだ。
そんな勝手な想いが一方通行ではないと感じたとき。
向けられる笑顔が自分にだけはもっと違う特別な意味が込められていると感じたとき。
たぶん、間違いなんかじゃない。
そして、あの感動はちょっと忘れられない。
沸きあがる喜びと、微かな羞恥と。
けれどまだこの想いを伝えてはいない。
というか、伝えられない。
いつも横にいるレインのせいで。

常にファインの傍にいた彼女。
その彼女を多少羨ましく思いつつ時には微かに嫉妬したりもしていた。
勝手だけれど、別にレインを疎ましく思ったことはなかった。
ただ最近の彼女は。
ファインとの仲を裂くかのようにいつもいつも割り込んでくる。
最初はひたすら疑問だった。
ある日を境に突然だったから。
それからずっと、ひたすら、ふたりですこし話をしようものなら割り込んでくる、一緒に帰ろうとすれば間に立つ。
そんなことが続けばいい加減うんざりもする。
ファインはレインも俺のことが好きだから、なんて言うけれど、絶対に違う。
あの目を見ればわかる、あれはそんな生易しいもんじゃない。
好きだとか恋だとか、そんな気持ちはもっと優しい暖かいものだと思う。
そりゃ人によっては違うだろうけれど、レインのそれは絶対違う、断言できる。
理由はわからないけれど、とにかくファインとの仲を邪魔をされていることだけはわかった。

「どうかした?」

覗き込んできたのは赤い瞳。
ふわりと楽しそうに笑うその顔は随分久しぶりな気がする。
最近レインに邪魔されてきたのに、そのレインは今は後ろでブライトと並んでいて。
だからだろうか、いつも以上に機嫌がいいと感じるのは。

「なんでもない。それより次アレ、行くんだろ?」
「うん!」

返ってくる笑顔はやはり明るくて甘くて。
レインに邪魔されながらも来て良かったと心底思う。
さっきからずっと突き刺さるようなブライトの視線が痛かった。
これで多少はそっちも緩和されるだろう。
それに、今日は決めてきたから。
ファインに、好きだと告げようと。
きっと笑って答えてくれる。
レインのことは…、これを機に以前のように穏やかな彼女に戻ってくれるといいと思う。
これもまた身勝手な思いなのだけれど。



 * * *



いつも一緒だったから大好きだったから、裏切られたと思った。


「私ね…シェイドが好きなの」

はにかみながら、でもこれ以上なく嬉しそうにファインが言った。
今までの態度とか、隣りにいる時の反応とか。
そんなすべてを知っていたから、あぁやっぱり、と思う気持ちもあったのだけど。
でもそれ以上に。
ファインを取られたみたいで悲しかった。
だから咄嗟に返した言葉は。

「実はね…私もシェイドが好きなの」


今日だって本当は二人の邪魔をしちゃいけないのはわかってる。
そんなコトしたってファインに嫌われるだけ。
わかってる、けど。

「最後は観覧車みたいだね」

単にファインとシェイドの背中を追いかけていただけだったけれど、横に立つブライトはその行く先もちゃんと見ていたらしい。
そういえば随分と日も暮れて、園内はイルミネーションに彩られている。
もうあまり長居もしていられない。

「そっか…もうそんな時間なんだ」

思えば今日一日、二人の邪魔しかしていなかった気がする。
目の前を歩くファインの横顔はすごく嬉しそうで、胸が締め付けられて。
楽しそうな顔を見るのは自分もすごく嬉しいけれど、向けられるのが自分じゃないと思うと切なくなる。
もう自分はいらないんだと言われてるみたいな気がして。
そんなことないとわかっていても、頭では理解していても。
それでも感じてしまうのはそんな不安ばかりで。
気がつけば無意識のうちにファインの背中ばかりを追っていた。

「危ないっ!」

だから前から走ってきた子供にも気付かずに、ただふらふらと歩いていて。
感じた衝撃は一瞬で。

「…大丈夫だった?」
「―――え?」

気がついたら後ろから抱き込まれていた。
しばたかせた目に映ったのはぺこりと謝りながらも駆けていく子供の後姿と、微かに見える金色の細い糸。
それが何かと窺えば、最初は近すぎてわからなかったそれが髪だと知れて。
ついで覗き込んできたのはファインとは色味の違う赤い瞳。

「大丈夫?」

重ねて問われた頃にはやっと自分がどういう状態か把握できていて。
ふらつきながらも自分の足で身体を支えた。

「ありがとう」
「怪我は?」
「そんな大事じゃないってば」
「それならよかった」

にこり、と笑った顔がなぜか印象的で。
こんな風に笑う人だっただろうか。
それに支えてもらった腕や胸や、こんなにも自分とは違って、しっかりしていた。
初めて彼を男として意識した。
途端に顔に血が集まったみたいに火照ってしまって。

「やっぱりどこか痛む?」

覗きこんでくる瞳を今度はちゃんと見返せなくて、逃げるように顔を逸らした。

「だ、いじょうぶ…だから」
「そう?」

振り返って不思議そうに見つめてくるファインに早く追いつかなければ。
なんだか急がなければいけない気がしてブライトもかえりみずに駆け出した。


「どうかした?」

観覧車に二人っきり。
いつもならなんともないのに、さっきのことがあったせいかなんとなく居心地が悪い。
別にブライトが嫌いとかそんなことはないのだけれど。
さっさと二人で前のゴンドラに乗り込んでしまったファインとシェイドをいつもとは違う理由で恨みたくなる。
なんで、こんなにブライトを意識しているのか、自分でもわからない。

「なんでもない、けど」
「そう? …キレイだね」

ふと逸らされた視線の先を追えば、上がり始めたゴンドラから見える景色はイルミネーションの洪水だった。
ぼんやりと浮かんだ光の中、視線を少しだけ上に向ければ二人が乗ったゴンドラが見えて。
すこしだけ切なくなった。
ファインとは、漠然とずっと一緒に居られるんだと思ってた。
たぶん、これからも別れることはない。
けれどそれは常に一緒というわけじゃなくて、縁が切れないとか、そういった類のものだ。
それが不安で、怖くて。
隣にファインがいないことが考えられない。
だって今までそんなことなかったんだから。

「…なに?」

ふと視線に気付いて振り返る。
また、だ。
さっきのあの笑み。
どこか酷薄にも見える細められた赤い瞳。
その視線にに晒されて、また落ち着かない気分が蘇ってくる。
さっきまで忘れていたのに。

「いや、きれいだなと思って」
「そうだね」

返せばなぜか曖昧に笑われて。
それから言われた突然の、言葉。

「好きだよ」

理解するのに数瞬を要した。
意味がわかっても主語が抜けてて、首をかしげる。

「君が、好きだよ」

主語が添えられたそれに、一気に顔に熱が集まって。


この瞬間だけ、初めて、ファインのことを忘れた。





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