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「あぁぁぁああぁっ!?!?」

驚いたなんてもんじゃない、たぶん、自分の人生の中で一番びっくりした。

今日は城に美容師さんが来てくれる日だった。
定期的に来てくれる彼女はいつも通りに髪を切ってくれる。
ちょっとのびてうざったかった前髪をそろえてもらって、後ろはちょっと切ってから梳いてもらう。
その間に聞かせてくれるお話はとっても面白くて、だから彼女が来るのはいつもいつも楽しみだった。
大抵は先に自分が切ってもらう。
座った椅子の周りに切られた赤い髪が散っていくのは何度見ても飽きなくて、自分が先!とちいさな頃に主張して以来ずっとだと思う。
だから今日もそうだった。
いつも通りに切ってもらって、簡単に髪を洗い流してもらう。
自分でタオルドライした髪はまだ湿っているけれど、彼女に洗ってもらったおかげなのかいつもよりつやつやしているような気がする。
たまには自分で髪をしばってみようか。
もちろんやり方はレインに教えてもらおう。
ちょっとだけお化粧もしてみよう、そんな楽しい想像をしながらレインを待っていたら開いたドアの先にはそのレインが笑っていた。
自分も笑い返そうと思った…のだが。

「その髪…どーしたの!?」
「…切っちゃった」

えへへといたずらっぽく笑うレインの髪は…彼女の肩よりも短かった。




それからのレインはひたすらご機嫌麗しく鼻歌まで飛び出す始末。

「髪の毛って結構重いんだね」
「そうなの?」
「うん、今すごく軽い」

にっこり笑うその笑顔。
やっぱりごきげんだ。
髪を切ってから今日一日ずっとこの調子。
別に不機嫌でいて欲しいわけではないのだが…なんとなく落ち着かなくて。

「もう電気消すよー?」
「ちょっと待って!」
「え」

反射的に待ったをかけると不思議そうに見つめられて。
なにか意図があって待ったをかけたわけじゃなくて。
じゃぁなんで止めたんだといわれても答えられない。
あーとかうーとか考えた末に、ちょっと恥ずかしい思いをしながら聞いてみた。

「…そっちのベッド行ってもいい?」
「もちろん」

枕だけ抱えていそいそとレインのベッドにもぐりこんでも、なんだか余計にどきどきするばかりで。

「もうちょっとしゃべろうよ」

このどきどきを収めたくて。
とにかくしゃべっていたかった。

「うん」

笑ったレインにそっと手をのばす。
その意図はすぐにわかってくれたようで、少しだけ横を向いた顔から覗く耳からしゃらりと髪がこぼれた。
指先で梳けばすぐに手から逃げてしまう短い髪。
青くて、さらさらで、艶やかで。
レインがどれだけ大事に髪を伸ばしてきたか知ってる。
たくさんの時間と手間をかけて、綺麗に手入れされた自慢の髪。
いつの間にか自分の自慢にもなっていた。
その髪が、今はこんなにも短い。
肩に付くか付かないかぐらいの横髪は前下がりになっていて、うしろにいくほど短い。
だからくるくると指に巻きつけて遊んでもすぐにほどけてしまって。
前は飽くことなくずっとその髪で遊ぶのが好きだった。
短くなったからといって飽きたわけではない。
そんなことはないのだけれど、物足りない。
あんなに長くて綺麗だったのに。
それに。

「どうしたの?」
「…なんでもない」

なんだかレインじゃないみたいで。
レインはレインで変わらないはずなのに、違う気がするのはなぜだろう。
首を振ったけれど答えになってないのがわかる。
レインが苦笑したのは自分の表情のせいだ、きっと泣きそうな顔してる。
レインだけどレインじゃないみたいで、なんだかどきどきで。
嬉しいのか悲しいのかわからなくてぐちゃぐちゃだ。
それでもはっきりとわかるのは、レインはレインで、綺麗で可愛い。

「もう、髪伸ばさないの…?」

切ったばかりでこんなこと聞くのはおかしいかもしれない。
けれど聞かずにはいられなかった。
もし、伸ばさないって言われたらどうしよう。
まだ決めてないかもしれない。
レインのことを考えているはずなのに、なぜかブライトの顔が出てきた。
もしかしたらブライトの好みに合わせて切ったのかもしれない。
そうだとしたら、悔しくてたまらない。
レインの髪はすごくすごく好きだったのに。
けれど予想に反してすぐに答えは返された。

「伸ばすよ」

明らかに自分がほっとしたのがわかって情けない。
それでもレインが笑いながら続けた。

「前より伸ばすかも」

笑ったレインはやっぱり綺麗で可愛くて。
私もこんな風に可愛くシェイドの目に映ればいいなと思った。

「もう寝よう?」
「うん、おやすみ…」

レインが電気を消して。
月明かりにその青い髪がキラキラ光った。

「おやすみ」

レインが髪を伸ばして自分も伸ばしたらおそろいになると思ったら、なんだか安心してすぐに寝入ってしまった。







微かな寝息を立てて眠るファインの髪は月の光を弾いて艶やかにシーツに散る。
それをそっと梳きながらレインは微かに笑った。

「ファインの髪の方がきれいだよ…?」

今までずっとファインのために伸ばしてきた。
もう彼女は覚えていないだろうけど、ずっと昔にキレイだよと言ってくれた笑顔が忘れられなくて。
その笑顔を守れるようにと願掛け半分に伸ばしはじめた。
でもそれももう終わり。

最近、ファインの笑顔が増えた。
いつもいつも笑っているけれど、その笑顔が格段に柔らかくなった。
元気いっぱいの底抜けに明るい笑顔に少しづつ華が添えられて。
ふんわりと、本当に綺麗に笑うようになった。
理由はわかりきってて。
悔しくないといったら嘘になる。
だってずっと一緒にいて、ずっと一緒に笑ってたのに。
なのにそんなファインの笑顔を引き出したのは自分じゃない。
悔しいけど、ちょっと寂しいけど、シェイドのこと認めてあげる。

『髪、切ろうかな』

何となく面白くなくてぼんやりと呟いた言葉に返ってきたのは、予想外の声だった。

『じゃぁ、今度は僕のために伸ばしてくれる?』

誰のために伸ばしてたとか、今誰を想ってたのかとか。
そんなこと一言も伝えていなかったのにそれでも突然言われた言葉に、思わず涙ぐみそうになったことは内緒だ。
今度は自分がファインみたいに笑えるように、自分を磨かなければ。
だって今までずっと一緒で。
きっとこれからもずっと一緒。
一番の姉妹で、理解者で、友人で。

だけど一番のライバルなんだから、ね?







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