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「おはよう」
なるべく優しい声をかけて、少しだけ揺すりながらミルキーを起こしにかかる。
あまり寝起きが良いワケではないが、こすこすと眠そうな目を擦るちいさなこの子にご飯だよと告げれば、まだ喋ることは出来なくても聞くことはできるようで嬉しそうな笑顔を見せる。
着替えを手伝って抱き上げたミルキーとリビングに向かうと、すでに朝食の準備ができていた。
「おはよう」
子供用の足の高いイスにミルキーを座らせていると、レインがキッチンから出てくる。
スーツを着ているから、もうすぐ出かけるところなのだろう。
「今日もいい子にしててね? 」
笑顔で言うとミルキーの左頬に優しくキスを残してすぐに玄関へ向かう。
自分とのいってきますといってらっしゃいの応酬を忘れずに。
優しい人だな、と思うのはこんな時。
あいさつは欠かさない、どんなときも笑顔で。
それが自分を明るくするし、なんとなく安心する。
仕事が忙しくてゆっくり話せるヒマはあまりないが、それでもいつかは。
同じ家に住んでいるんだから。
「…? あぁ、ごめん」
くいっと袖を引かれて我にかえれば、少し不満げなミルキーの顔とぶつかった。
目の前にレインお手製のおいしい―レインが作ったのだからおいしいに決まってる―朝食があるのにお預けをくらって、良くない寝起きが更に急降下してきている。
慌ててご機嫌をとるべく朝食を開始した。
「…おはよぉー」
そろそろ食べ終わろうかという頃になって、パジャマのまま眠い目をこすって入ってきたのはファインだ。
その姿は自分よりいくつか年上なはずなのに、どうもミルキーがさっき見せた寝起きの姿に重なって微笑ましい。
まっすぐ冷蔵庫に向かって冷たいオレンジジュースを注いで一気に飲み干す。
それから食パンをトースターに放り込み、2杯目のオレンジジュースを注いだ。
「今日も10時から? 」
時々変わるバイトの時間を問えば首を振る。
起きてきた時間がいつもと一緒だったからバイトもそうだろうと思ったのだが違うらしい。
焼けたトースト片手に彼女もダイニングテーブルについて、さっそく目の前の朝食をたいらげにかかる。
彼女のその様子はまさに食べるというより平らげるというほうが正しく思える。
見ていて気持ちのいい食べ方だ。
…ミルキーに見習わせようとは思わないが。
「今日さぁ、9時からなんだよね」
口をもごもごさせながらそれでもはっきりと告げられて。
愚痴のようなそれに同情を返そうかとしばし悩んだが、ふいにあるものが目に入った。
確かここに来たときに彼女が買ってきて、このリビングの壁に誇らしげにかかっているパステルカラーのアナログ時計。
それが指す時刻は。
「…もう8時半まわってるけど」
「…えぇっ!? 」
慌ててジュースでトーストを流し込みプレートに乗ったオムレツをかきこむと、部屋に猛ダッシュをかける。
どたばたととても身支度をしているとは思えないような音がして。
それがおさまったかと思ったら今度は部屋からダッシュで洗面所に向かう。
戻ってきたファインの髪は少しだけ濡れていて、束ねようと悪戦苦闘する髪からは時折ぽたりと雫が落ちた。
なんとかしばった髪を揺らして、ミルキーに向き直る。
「いってきます!」
ミルキーの右頬に可愛らしいリップノイズを残して、慌しく玄関へ走る。
もちろん、レインが用意していたテーブルの苺を口に入れることを忘れずに。
「…いってらっしゃい」
聞いてはいないが、とりあえず返しておいた。
「ちょっと待っててくれるか? 」
そう声をかければいつものこと、ミルキーがにっこり笑顔を返してくれる。
レインの朝食のおかげで今朝の機嫌もすこぶる良い。
自分も笑顔を返してリビングを出た。
「いい加減起きろ」
開けたのはシェイドの部屋。
ベッドには案の定、まだ惰眠をむさぼる彼の姿がある。
声をかけても起きないのはいつものことだから、すぐに行動を起こす。
「シェイド!」
きつく声をかけながら掛け布団を引っぺがした。
そろそろ暖かくなってきたとはいえパジャマ1枚では肌寒いのであろう、布団を探してもぞもぞしている。
「おーきーろっ!」
「…んぁ」
なんとか起き上がったものの、目が覚めているかは甚だ疑問だ。
まぁいつものことなのでそのうち起きると見切りをつけて自室にに向かった。
手早く身支度を済ませ、鞄の中身を確認する。
大学が始まったばかりだから、いつもよりも慎重に見て、最後にもう一度部屋を振り返った。
「おはよぅミルキー」
リビングに戻ると、ちょうどシェイドがミルキーの目元におはようのキスをするところに出くわした。
それを無理やりどかせて、ミルキーの前に割り込む。
自分の言いつけをちゃんと守って大人しくしていた彼女の頭を優しく撫でれば、隣の男から突き刺すような視線が飛んでくるがいつものことなので無視した。
それよりも目の前の笑顔のほうが何十倍も大切である。
「それじゃ、兄ちゃんのことよろしくな? 」
そろそろ自分も出掛けなければならない。
額にキスを落して玄関に向かう。
もちろん、シェイドの文句やら視線やらは綺麗に無視して。
これがブライトの朝の日課である。
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