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穏やかな木漏れ日、心地よい風、微かに聞こえる鳥のさえずり。
そんな中にあるこの東屋を見つけたのは偶然だった。
入学して間もない頃にファインと天使たち、4人で学校中を探検した。
最初の休日を校門から果ては裏庭の木の裏まですみずみまで回ることに費やして。
綺麗な花が咲いている場所、食堂までの1番の近道、野良猫の昼寝の時間、そんなどうでもいいようなことをたくさん見つけた。
その中のひとつがここ。
なにもなくてつまらないからとファインはあまり近づかないが、その後レインのお気に入りとなった。
穏やかな、ゆっくりとした時間が流れているようなこの東屋のテーブルセットも気に入っている。
むきだしの木にしかし丁寧に鑢をかけたであろう東屋の柱と屋根。
その下には同じく細い木を削りだしたテーブルセット。
時間のあるときはここまでお茶やお菓子を持ってきてささやかなお茶会をするのだが、それ以外はファインもついてこないから今はキュキュと2人だ。
今日もそれに漏れず2人でまったりしていたのだけど、することがなくてつまらないのかキュキュはテーブルにのせたハンカチの上で眠ってしまった。

「まだ寝るんですかー?」

その柔らかい頬をつつきながら問えば、むずがって反対を向いてしまう。
幼くていたずらな、それでも可愛い自分の天使。
ひょんなことから一緒に居ることになったけれど、今ではかけがえのない存在だ。
ファインと同じ、姿が見えないと不安になる。
自分でもうまく説明できない焦燥感のような、胸の奥が疼く。
怖くてたまらない。
ただこの子の場合はどこでいたずらをしてるかの方が気になるのだけれど。
ふふ、と笑ってふわふわの髪を撫でてやる。
感謝しているのだ、この子には。
キュキュがいるおかげでファインと離れているときの不安が減ったと思う。
なくなることは決してないけれど、それでも。

「ありがと」

眠る姿にちいさくつぶやく。
聞こえてはいないれど。
起きていたとしても伝わるかはわからないけれど。
それでも伝えたかった。
だからといってこの子が変わるわけではないし、何も変わることはないけれど、それでも。
やっぱり気持ちよさそうに眠ったままのキュキュ。
それが本当に気持ちよさそうで、つい自分までうとうとしてくる。
今日は学校も休みでファインはシェイドと出掛けたから探しに来ることもないだろう。
それを少しだけ寂しく思いながら、レインは机に突っ伏した。





「ん……」


身じろいだ拍子に目が覚めたらしい。
あれ、と思ってから東屋で寝てしまったんだと思い出す。
眠る前に見たのはキュキュの可愛い寝顔。
しかし目の前にあるハンカチはもぬけの殻で、またどこかにいたずらしに行ったのではと思ったら一気に目が覚めた。

「キュキュっ!?」

「おはよう」

飛び起きて視線をめぐらす前に声をかけられてびくりと体がすくんだ。
ここに来る人はまだ見たことがなくて、もしかしたらもうキュキュがなにかしでかしてポイントを減らしに誰かが来たのかと思ってしまう。
だが目の前にいるのは見知った顔で。

「ブライト…?」

しかも心配したキュキュは彼の指にじゃれ付いている。
制服の上着は着ていない彼がなぜここにいるんだろうと首をかしげると、立ったままの背中から何かが滑り落ちる感触があって。
慌てて振り返れば椅子の上に落ちた彼の上着を見つけて納得した。
自分の上にかけてくれていたらしいそれに、いったいどれだけ寝ていたんだろうと恥ずかしくなる。
丁寧に払ってから返せば見せてくれる笑顔が嬉しくも気恥ずかしかった。

「ところでレインはもう昼食取った?」

問われて時計を見ればもう昼過ぎ。
ここに来たのが昼よりちょっと前だった。
ずっと寝ていたからもちろんそんなことはない。

「まだだけど…」

「久しぶりに一緒にどう?」

最近ブライトは毎日部活で会う時間すらなかなか取れない。
自分もやらなきゃいけないことはたくさんあるから、すれ違ってばっかりでこうやってゆっくり話すことも久しぶりのような気がする。
だからその誘いが嬉しくてすぐに笑顔でうなずいた。



「よかった、笑ってくれて」

部活は午前で終わりだからと2人で街へ出て手近なレストランに入る。
高くない割においしいと評判のそのレストランは、昼よりちょっとずれた時間でもそこそこの賑わいを見せていた。
2人も窓際の席に案内されて注文を済ます。
キュキュは途中で買ってきたクッキーに夢中だからしばらくは大人しいだろう。
それを確認していたら唐突に言われた科白。
よく意味がつかめなくてレインは首をかしげた。

「最近会えなかったから」

笑ってくれて嬉しいと照れたように笑うブライトに、自分の顔も心なしか赤くなるのを感じた。
どうしてそんな科白をすらっといえるのだろう。
こっちが何もいえなくなる。
俯きかけたとき、それに、と続けるブライトの声が聞こえた。
それが妙に真剣で、さっきの口調とはちょっと離れていてつい顔を上げれば、すこしだけやはり真剣な目とぶつかる。

「ファインと離れてる君は浮かない顔が多いから」

「…そう、だった?」

「そうだった」

自信満々にそんなこと言われてもどうかと思う。
正直驚いた。
ファインと離れてもそんなそぶりは見せまいと思ってたし、だれも気付きはしなかった。
それが、最近は会う機会も減ってしまった彼に指摘されるなんて。
ごめんと心の中で呟いた。

「謝らないで」

なぜわかったのだろうか。
今度こそ目を見開いてブライトを見れば苦笑された。

「君はホントに顔に出やすいんだね」

「そんなこと、初めて言われた…」

いつも表情豊かなファインの横にいたから、自分までそうだとは思えなくて。
記憶をたどってみても、やはり自分に向けられたそれは初めてだ。
なんとなく落ち着かなくて上目遣いで彼を窺えば、すっと目が細められた。

「いつか…今は一番じゃなくてもいいから、僕だけを見て欲しい」

ファインじゃなくて、自分を。
そんな言葉が続きそうなそのセリフ。
否、彼の心の中では続いているのだろう。
今度は自分が苦笑する番だ。

「1番好きなのは…、ブライトだよ?」

最後はかなり小声になってしまったけれど、ちゃんと聞こえたらしい。
ほっとしたような笑顔を見せてくれて自分も嬉しくなる。
誰が1番好きかと聞かれたら、迷わず彼だと答えるだろう。
異性として、恋愛の大好きを向けるのは彼だけ。
ファインは…すごく大事で、ずっと一緒に育ったから特別すぎてくくることが出来ない。
守らなきゃとか愛しいとか、大事すぎて。
いつも一緒だから離れるのが怖い。
いつかは離れるのだろうけれど、それまではまだ時間が欲しい。
1番大事なのはファイン。
だけど、1番大好きなのはブライト。
今はそれしか言えないけれど。
なるべく言葉を選びながら伝えれば、わかったと一言だけ返してくれて。
計ったように注文した料理が運ばれてきて、ちょっとだけ間が空いた。
どうしようかとそろそろとアイスティーに手を伸ばせばブライトが口を開く。

「ファインも君がいないと元気がないんだ」

知ってた?といたずらっ子のように笑う。
自分がいない時のファインなんか見たことがないから知ってるはずがない。
シェイドに聞いたから本当だよと語るその言葉はたぶん嘘じゃなくて。
ファインも、自分と一緒。
それがブライトやシェイドからすればあまり良くないのだろうけど、それでも嬉しかった。

「ほら、あそこ見て」

ブライトが示したのは窓の外。
そこにはシェイドに手を引かれて歩くファインがいた。
今日は2人で出掛けるといっていたけれど、どこに行くかは聞いていなかった。
ここらへんに目的のお店があったのだろうか、そう思いながら見ていたのだけど。
どことなくファインに覇気がない気がする。
いつもなら自分の手を引っ張ってきょろきょろとたえず視線をめぐらせているのだが、今日のファインは視線は彷徨うもののシェイドに手を引かれっぱなしで。
あぁ、とさっきのブライトの言葉に納得した。
見ればほらねとでも言うように笑っている。
なんだかしょんぼりしているようなファインが気になってもう一度窓の外に目をやると、ちょうどこっちを向いた彼女と目が合った。

「―――!!」

途端満開になった笑顔に自分もブライトも思わず笑いがこぼれて。
同じく急にさっきとは正反対に引っ張られることになったシェイドも、こっちを見て納得したのか苦笑していた。


「―――――もう少しだけ…」


口の中で小さく呟いた言葉はブライトには聞こえなかったらしい。
なんでもないと言って視線をめぐらせれば、もうドアのすぐ前にまでファインが来ていた。

「きっと賑やかなご飯になるね」

笑って言えば笑顔で返してくれる。
それから増える2人分の笑顔と可愛い天使。



もう少しだけ、このままで――………。



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