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月の国への滞在予定ももうすぐ終わりを迎える。
あと3日もすればおひさまの国に帰って久しぶりにファインとゆっくりできると思っていた矢先だった。
「レイン様!すぐにおひさまの国にお戻りください!!」
ムーンマリアの許可を得て何事かと手早く荷物をまとめる。
その片手間にと使者に話を聞けばその口がためらいがちに開かれた。
「実は、ファイン様が…」
「ファインの身になにかあったのか?」
傍らにいたシェイドが息を飲んだ。
レイン自身も一瞬身を竦ませ、食い入るように使者を見つめる。
2人の王族の睨むように強い視線に晒された使者は緊張に身を堅くしながらも慌てて訂正した。
「いえ、怪我をしたとかそういうことではございません」
それならなんなんだと疑問を浮かべる2人に、それでも使者の口は重く。
言いづらそうに話す要領を得ない説明に焦れたシェイドが先にキレた。
「もういい、俺も行く!」
そう言ってレインを急かし、飛行艇までも急がせた。
「レイン…っ!」
いつもは穏やかに微笑む父の顔が困り果てていて、とにかくエルザの部屋へと急かす。
荷物は迎えに出た侍女に預け、帰還のあいさつも早々にファインがいるという母の私室に向かった。
するとすでに帰還を聞き付けたのか、ドアを開けた途端に飛び付いて来る赤い影。
「ファイン!?」
普段ならば易々と受け止めるその体も、突然のこととその勢いにたまらず数歩後ろにたたらを踏んだ。
それをちょうど後ろにいたシェイドが受け止める。
その彼も訝しげにファインを見つめていた。
「どうしたのファイン?」
肩に埋められた顔をゆっくりと上げるように促す。
離れたくないとばかりに抱きついてくる腕を緩めてなんとか上げさせた顔を見て驚く。
その目元が真っ赤に腫れて、頬には未だ涙の跡があった。
こんなにも派手に泣く姿はさすがにレインも見たことがなくて、理由を問いただすことも忘れてとにかくファインを抱き締めた。
「…大丈夫だよ」
縋ってくる腕にはすぐに力がこもって背中が痛い。
でもそれよりも、ファインが盛大に泣き叫んで涙を流す方がよっぽど胸が痛かった。
「れい、っ…ふぇ……!」
「うん、大丈夫だから」
何度も何度もその背を撫ぜて、大丈夫だと囁いて、根気よくファインが泣きやむのを待った。
それからしばらくして、泣き疲れたのかレインの胸でことりと眠りに落ちたファイン。
ベッドに寝かせようとしたのだけれど、その手がレインの服の裾を固く掴んで離さない。
妥協案としてなんとかソファに腰を落ち着けた。
「どうして…こんな状態に?」
ファインを気遣ってか囁くように問い掛けるシェイド。
エルザに向けられたそれに、彼女は目を伏せて首を横にふった。
自分にもわからない、と。
「ただずっと、レインと離れたくないと泣くばかりで…」
レインが月の国へ行ったために寂しかろうとトゥルースが宝石の国からブライトとアルテッサを呼んだのだが、昨日その3人でお茶を飲んだときから様子がおかしかったのだと言う。
それまでは元気にいつも通り振舞っていたファイン。
それが急に。
「アルテッサは、レインとシェイドの婚約のせいだって言うんだけど…」
今回のこの騒動で、たぶんレインとシェイドの婚約が破棄になる。
子供に甘いトゥルースのことだからとひっそりとエルザが笑った。
「大人の都合にふりまわしてしまって…ごめんなさいね?」
それにレインが微かに首をふる。
たぶん、こうなることをわかっていて自分はこの話を受けた。
さすがにここまでファインが盛大に暴れるとは思っていなかったが。
きっとシェイドがなんとかして婚約破棄に漕ぎ着けるだろうと思っていたのに。
「私も…浅はかでした」
ファインには敵わないとエルザに向かって笑えば、同意とばかりに微笑みが返ってきて。
たとえ建て前だとしても、離れたくないと言ったファインの言葉が嬉しかった。
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